works
ヘゲルは目の前に現れたそれに対し、どうでたものかと悩んでいた。 街を行き来するゲートへの最短経路を選んだのも、さっさとクエストの終了手続きを済ませたかったからだ。 それが裏目になるとは考えていなかった。 「本当にMobとして実装されてるとはなぁ……
「いつまで目を閉じてるの?」 問うてもクレードルは答えてくれない。 「あれ?」 目を開くと見慣れた本棚が飛び込んだ。 母親が選んでくれた絵本、父親が選んでくれた少女にはちょっと難しい図鑑が並んでいる。 「えっと、どの本を取ろうとしてたんだっけ」 …
「起動しないのは重症ね」 カシスは電源ボタンを押しても反応しないパソコンを見ていった。 見た目に変化はないし、臭いもない。 同居人がトラブルシューティングの記録に使っているノートを確認しながら、カシスは作業を進める。 このノートの記述を信じる…
弱った、と瞬子は動かないPCの前でうなだれていた。 先ほどまでディスプレイにテキストエディタが映っていたが今は何も映らない。 ディスプレイの電源は入っているようだが、パソコン本体からは何も音がしていない。 ブレーカーは落ちていないようだし、電源…
クレードルが語るには(3) 「ことの始まりはモラルの低下だったと言われている」 「モラルの低下?」 「簡単に言えば、お行儀が悪くなったのだ」 クレードルの言葉に少女は背筋を伸ばして、 「しゃきーん」 「そう背を伸ばさなくても良い。疲れるだろう」 「だ…
首を傾げて、 「あれ」 と少女は疑問を口にした。 ついさっきまで自分の部屋にいたはずなのに知らない場所にいるからだ。 「えーっと」 首を右から左にゆっくり動かしてから、 「お風呂場っ」 と叫んでから違うと一人、うなだれてみる。 白い壁、広さは自宅…
「相手はブラック・アウトか。気を抜くなよ」 「噂聞く限りじゃそんな余裕なさそうだ」 「どういうこっちゃ」 「戦闘開始と同時に落とされそうだから」 「お前なぁ。せめて、先に落とすぐらい言ってくれよ」 「強がりは言わない主義なんだ」 「お前は謙遜の…
「ごめんね」 と彼女は言った。 「何で謝るんだ?」 「だって」 とそこで彼女は言いよどんだ。 「だって……」 「俺の、こちら側に来れないからか」 画面の向こう、少女がゆっくりと首を縦に振った。 彼はコンピュータの前に座って、 「それは、お互い様だ」 彼…
「市民、幸せですか」 「concon」 「(ぷしゅん)」 「市民、幸せですか」 「それが先日、会社を首になってしまって……」 「市民、働きたいですか」 「もちろんです、コンピュータ」 「市民、可及的速やかにこの様式に入力しなさい」
朝の6時、外は明るくなっている時間だが寝室は暗い。 窓際の遮光カーテンがその力を思う存分に発揮しているからだ。 今日の小惑星接近予測から察するに午前中はゆっくりできるだろう。 一騎はもう30分ぐらい寝ようか、とまぶたを閉じようとした。 「私たちは…
「お客様、清算はすませましたか?」 「もちろんです、コンピュータ。清算は客の義務ですから」 「(SE:レーザー発射音:みー)」
「ギルドの目標?」 「そう、何か目標があったほうががんばれるでしょう」 「てきとーに突っ走るでもいいけどなぁ」 「気が合う同士なら良いけれど、ギルドになるとそうもいかないわ」 「あー、そっかぁ」 「攻城戦が主体のギルドの目標……」 「勝つってのはど…
「ナイトさん、何かいってやってくださいよぉ」 泣きついてきたのは訓練中のワイバーン隊の拓郎だ。 「おいおい、どうした」 拓郎の言葉に全長30mほどある大きな人型ロボットが腕を組んだまま振り返る。 彼が乗っている訓練機より一回り小さかったが、飛行機…
宣言通りの射撃が来るに違いない。 だから、私はコンテナを蹴って身体を斜め前へ。 相手が構えているのは狙撃用の銃で、近距離での取り回しは良くない。 元の位置でもお世辞にも良いとは言えない。 それに近距離にいけば、あの男の魔術も無力化できる。 左手…
着地と同時に女が取った行動は自動小銃2丁による連射撃だ。 女から見て右のオフィーリア、左のエプシロンに向けてそれぞれ17発。 二人の身につけていたシールドジェネレータが作動、周囲のエーテルを防護の力に変換する。 赤いドレスの女が弾を打ち尽くすと…
「派手にやってるね」 黒髪の少年は横にいる少女に言った。 「そうですね」 ロビーにある緊急のクエストボードで、港の調査依頼を請け負った二人は装備を整えてその港に来ていた。 あちこちに弾痕や爆発の跡が残されている。 警備員の話によるとどうやら、二…
「ちきしょー、あいつ」 男は撃たれた腕を押さえながら、コンテナの影に隠れた。 顔を出そうものなら、コンテナの向こうにいる女が持つ突撃銃の餌食だろう。 幸い、致命傷にはならずに済みそうだ。 別に致命傷になったところで、男にとってはさしたる問題は…
「PC、重たいだろ。持ってやるよ」 「ありがと。でも、逆に君が重くなるよ」 「ま、これぐらい何でも無いな。UMPC2台だろ。A4のオールインワンノートに比べたら軽い軽い」 「大体2kgぐらいかな」 「それぐらいだろうな」 「あ、うちの犬と同じ重さだ」 「ふ…
3. 時間はプリステラがUADS XSS 8961thに侵入した時点まで遡る。 プリステラはXSS 8961thの機体制御コンピュータに自身を侵入させることに成功した。 機体の光学カメラやレーダー、そのほか搭載したセンサーの情報は機体制御コンピュータを経由する。 固有の…
「営巣地の爆撃か。あまり、気乗りしないな」 田辺はシートに寄りかかった。 それも、頭の後ろで手を組んだ姿勢で、当然ながら操縦桿からは手が離れている。 「歩兵の楽しみを奪う可能性があるからか」 とエリス。 「そうだな。それと、情が移ったのかも知れ…
「もしかして、一騎か?」 背中から呼びかける声に振り返ると、見覚えのある顔があった。 見覚えがあると言っても、四捨五入すれば10年ぐらい昔に見たことのある顔だが。 「お前、陽介か?」 「そうだよ。良く覚えてるなぁ。嬉しいよ」 と彼は人なつっこい笑み…
青年の2mを超える大剣が少女の身体を横一線に切断しようとする。 少女は地面を強く蹴ってバックステップ、10m近い距離を一瞬で下がり両の手に握る短機関銃のトリガーを絞った。 大剣を構える青年はすぐさま剣を盾にして銃撃をしのぐ。 10秒にも満たない銃撃…
プリステラが目を開くと、そこには何も無かった。 上下左右何処を見ても白一色だ。 奥行きもなく、のっぺりとした風景が広がっている。 「私……」 思い出そうとして、あることに気づいた。 「身体……」 目を開いた、と言うのは錯覚で身体と言うべきものが何処…
目の前で子どもが泣いている。 年齢は5歳ぐらいの男の子。 転んでしまったらしく、擦りむいた膝を抱えて泣いている。 周囲に親どころか他に人は彼女しかいないようだ。 彼女に気がついたのか、男の子は泣くのをやめたがすぐに再び泣き始めた。 このまま、通…
UADS管制室の静寂をアラートが打ち破った。 長音1回、短音が3回を繰り返す。 機体にトラブルがあった場合のアラートだ。 惑星全域で展開するUADSの中枢機に問題が生じた場合、地上の被害は計り知れない。 航空戦力の6割を占めるUADSの損失は致命傷だ。 ある…
青年は自分のおかれた状況が理解できずにいた。 少なくとも自分の知っている場所ではない。 壁は小さく切り出した石を積み重ねたものだ。 照明は見慣れた電気の明かりではなく、ろうそくか何か燃やしているものだ。 昨晩は学校の友人の家で出たばかりの格闘…
白の少女は黒の少女のベッドに横たわりながら、黒の少女が液晶ディスプレイに向かっている姿を眺めていた。 今は波に乗っているらしく、両手の指を使って軽やかにキーを叩いている。 時折、変換で止まったり、エンターキーを叩いた後、少し考えるために止ま…
「無限に存在できるかは不明だ」 彼の疑問に"それは"そう答えた。 「なぜだ」 彼は重ねて問う。 「強力な物質再構成機構を持っているのだろう?」 「そうだ。機体の9割を損失しても再生可能だ」 「論理面でも強力なエラー訂正能力と、自己保存能力がある。無…
「ふむ、君も相方が人ではないのか」 「だからといって特別なことはないよ」 「そうか」 「苦労もしてはいないかな。それはあなたも同じだと思う」 「俺の場合は……そうだな、特別な苦労はしていない」 「特別な苦労?」 「息がどんなに合おうが他人は他人だ。…
ブラック・アウト、速度を維持したまま機首を反転。 大きな半円を描いてリヴァイアサン――コピーのブラック・アウト――に向かう。 リヴァイアサン、AMSを集束モードで射撃、ブラック・アウトを薙ごうとする。 黒の機竜は機首を水平にしたまま、スラスターを使…