目の前で子どもが泣いている。
年齢は5歳ぐらいの男の子。
転んでしまったらしく、擦りむいた膝を抱えて泣いている。
周囲に親どころか他に人は彼女しかいないようだ。
彼女に気がついたのか、男の子は泣くのをやめたがすぐに再び泣き始めた。
このまま、通り過ぎようかしら、とも考えたがそれはやめて、彼女は少年に歩み寄り、手を差しのばした。
しかし、男の子が膝を抱えたままの状態では手は届かない。
立ち上がって、一歩踏み出す必要があった。
「立てるでしょう?」
男の子は泣くのをやめて、彼女の顔を見た。
ややあって、男の子は彼女の手を取ろうと立ち上がる。
動くことで擦りむいた膝が痛むようだがそれを堪えて、
「――」
一歩を踏み出して、彼女の手に触れようと伸ばすが、彼女は手を引っ込めて、
「ほら、一人でも立てるわ」
代わりに微笑みながら男の子の頭を撫でた。
アナザー
一歩を踏み出して、彼女の手に触れようと伸ばすが、彼女は手を引っ込めて、
「ほら――」
言葉を紡ぐよりもはやく男の子は烈火のごとく泣き出した。