ヘゲルは目の前に現れたそれに対し、どうでたものかと悩んでいた。
街を行き来するゲートへの最短経路を選んだのも、さっさとクエストの終了手続きを済ませたかったからだ。
それが裏目になるとは考えていなかった。
「本当にMobとして実装されてるとはなぁ……」
少し前に派手な痴話喧嘩があって、その時に港の一画を破壊した女がいた。
その事件からしばらくして、運営が敵として実装したという噂が流れはじめた。
ヘゲルも何度か耳にしたが嘘だとしか思っていなかった。
事実はどうやら、ネタの方を重視したようだった。
赤いドレスの女はヘゲルの方を思い詰めたような目で見つめている。
「俺、なんかやったか?」
キャラクターの口と一緒にヘゲルはリアルでも呟く。
こりゃあ、帰ると言っても通じねぇだろ、と彼は白い髪の頭をかいた。
「……死ね」
小さいがはっきりとそれの殺気立った声が聞こえた。
来るのは刀の横薙ぎだ。
ヘゲルは地面を蹴って真上に飛ぶ。
刃渡り15cmほどの剣を右と左の手に持って、それに向けて投擲する。
「いきなりそりゃねぇよ。何処から取り出したんだ、その刀は」
彼が言い終わる前にそれは両の手に大型拳銃を握り、連続射撃した。
銃弾はシールドに阻まれて届かないが、シールドゲージは目に見える速度で減っている。
ヘゲルは銃弾を受け流しながら、後ろに下がって着地。
「だからよ、もう少し常識をだな」
Mobにそんなことをいってもしょうがあるまい。
「しかし、ソロだときっついねぇ」
元々は恋愛がらみのトラブル、さらにそれを仕留めたのが恋人同士のタッグだ。
それを思い出してヘゲルはぼやいた。