手に握っている小剣は先から出番がほとんど無い。
一度、距離をとったのがまずかったらしい。
相手は弾幕を展開し、こちらを近づかせないつもりのようだ。
少しでも疲れた様子を見せれば、ゆっくりとした足取りで近づいてくる。
それも剣と言うには巨大な凶器を持って、だ。
得物以外の服装やしぐさが妙に上品なのでちぐはぐな印象があった。
シールドゲージを確認するとフルになっていた。
逃げ回った甲斐があると言うものだ。
あれの弾幕に果たして何秒持つかはわからないが、この状態ではありがたい。
援軍は来ないし、良い案も浮かばないとなればやることは決まっている。
「ま、いっちょ行きますか」
誰とも無く呟いて彼は逃げるのを止めた。
一緒に銃撃も止まった。
銃声の代わりに歩く音が聞こえる。
舗装された区画なのでよく響く。
音の方向に向いてヘゲルは小剣を構える。
相手をじわじわと殺すのが好みらしいのようだから、こうすれば近接武器で挑んでくるに違いない。
彼の読みどおり、姿を見せた相手は剣を手に持っている。
それも悪趣味だ。
このまま、近接戦にいける、と彼が考えた瞬間だ。
相手の姿が消えた。
右手のコンテナから大きな金属音が聞こえて、彼はそのほうを向いた。
正面から紅いドレスのそれが剣を真っ直ぐに構えて突っ込んでくる。
ヘゲルのシールドに直撃する。
このまま、耐えられば、と思ったがガラスの砕けるような音が響いて、防壁が消失した。
剣がこちらのキャラクターを貫くまで1秒もかからない。
ああ、こいつは相手が凹むのを見るのが好きなんだな、とヘゲルは負けを意識しながら思った。
つくづく嫌な奴だ。
彼は横から冷気を含んだ風を感じた。
正面から快音が響く。
剣に氷の弾が命中した音だと彼は理解した。
バランスを崩した相手は通常のキャラクターには真似できない大きなバックステップ。
剣を構えなおしつつ、それは魔術が離れた方向をにらんだ。
「随分と苦戦していたようね」
「もうすぐ終わるところだったぜ」
「あなたの負けで、だけどね」
「心配するか罵倒するかどっちかにしねぇか?」
あきれた調子でヘゲル。
「嫌よ」
微笑みながら少女は言った。
紅いドレスのそれを見て、
「それにしても亡霊とは悪趣味ね。ところでヘゲル、まだ、戦えるかしら?」
「なんとかな」
「そう。私だけだったら危ないけれど、二人なら勝てるわ」
励まされてるなぁ、とヘゲルのプレイヤーは頭を掻いた。