wired raven

文字通りの日記。主に思ったことやガジェットについて

混戦(16)

壁のように目の前に立ちはだかる弾幕にも機体が通れるだけの隙間がある。
黒の機竜はその隙間に一直線に飛び込む。
上下、左右に隙間を通り抜ける機体は大きく揺れる。
弾幕を切り抜けると、リヴァイアサンの右側面が見えた。
弾幕が止んでいるのは
「シールドを展開したか」
田辺の言葉どおり、薄緑の光の壁が目の前に現れる。
ブラック・アウトは機体下部にあるスラスターを使って、機体を水平にたまったまま垂直上昇し、シールドを避ける。
足元から強烈な圧迫感、追尾式のビームだ。
機首下面のスラスターと後部背面のスラスターを噴射して、機体を垂直にして、最大推力。
飛行機雲を残しながらブラック・アウトは安全圏まで退避しようとする。
ビームのほうがはやく、進路をふさぐように集束している。
光でできた網だ。
エアブレーキを展開して急減速、ビームはブラック・アウトの前方300mで点となり爆発する。
爆発の横を切り抜けなら、
「手ごわいと判断する」
「まったくだな」
敵は自分の機体の特性をしっかりと把握しているようだ。
この戦いに田辺は子どもが蟻の巣を破壊するような印象を受けていたが、どうも変えないといけないようだ。
攻撃中にシールドが解除される特性を使って攻撃するのは難しいだろう。
機体の後方を警戒しながら田辺は問うた。
「EBSを前方に集中させて、シールドと装甲を貫けるか?」
「可能だと推測する」
確実にできるのなら、エリスは判断する、と断言するが推測と言った。
可能性としては低いのだろうな、と田辺は考える。
データが少ない。確実性は低い、とエリス。
「失敗した場合、こちらが堕ちるのだけは確かだ」
「だが、代案はない。現在の装備でシールドの突破が可能な武装はEBSのみだ」
「なら、行くぞ、エリス」
「了解した」
機体を反転させて垂直降下、推力と重力を使った急加速。
黒の機竜は一瞬で音を追い抜き一直線にリヴァイアサンに突撃する。
速度にリヴァイアサンの砲撃が追いつかず、機体の後方で炸裂。
リヴァイアサンが砲撃を止め、シールドを展開する。
ブラック・アウト、EBSを集束モードで起動。
機首のスリットが開きエーテルを放出、瞬時にエーテルは攻撃に変換され、リヴァイアサンのシールドを砕いた。
激しい衝撃に田辺の身体のセンサーがダウンし、視界も感覚も消え失せた。
リヴァイアサンの中央に激突したブラック・アウトは巨体の内部を食い散らすよう突き進む。
黒の小さな機竜が敵の巨体を上から下へ貫通するまで2秒もかからなかった。
エリスはEBSを停止させ、安全圏まで退避を開始。
機体の左右にある2機のシールドジェネレータのうち右側のシールドジェネレータが破損している。
飛行に支障はない。
「……終わったのか?」
復帰した田辺が周囲を見ながら言った。
後方、巨大な機竜の身体が炎と煙、小爆発を伴って崩れている。
しかし、レーダには敵の機竜群が映ったままだ。
田辺は操縦系に問題ないか確認し、再び、ブラック・アウトと同調する。
「まだ、終わってないぞ」
リヴァイアサンが再び、小爆発。
破片が煙をまとって飛び散る。
そのうちの一つが真上に向かって、飛翔する。
機竜だ。
それも、見覚えがある。
「ブラック・アウトのコピーか……っ!」
彼の叫びに応じるかのように長距離ミサイルが放たれた。