wired raven : Automatic Wing

文字通りの日記。主に思ったことやガジェットについて

異世界に飛ばされたロボットの話(5)

「これは決闘だからな、殺し合いじゃないからな!」 トーマスは物言わぬ異国の騎士に決闘のルールを説明していた。 説明すれば首を縦や横に振っているのである程度は会話は成立しているはずだ。 だが、どれぐらい正確に理解しているかはわからず、トーマスは不安だった。 言葉をいつものように教えていたら、騎士のハル・ノイマンがやってきた。 「彼に言葉を教えているのかい」 と聞かれ、そうです、とトーマスははっきりと答えた。 「すごいじゃないか。君の名前は?」 トーマスが胸を張って名乗ると、 「トーマスか。これから彼と決闘をすることになった」 ハルの言葉にトーマスが驚いているとさらに、 「ルールをどう説明するか困っていたんだ。トーマス、君の力を借りたい」 と言われさらに驚いた。 騎士にお願いすることはあっても、お願いされることはめったにないことだ。 だから、トーマスは勢い良く、 「はい、喜んで!」 と言った。 言ってしまった、というのが正しいかもしれない。 トーマスは不安を覚えていた。 もし、この決闘でこの騎士がハルを殺すようなことがあれば大問題だ。 殺し合いではない、と言葉を変えて何度も説明しているのだが……。 「お兄ちゃん」 「ん?」 「訓練って広場であった?」 ジョンの言葉にトーマスはしばらく考える。 もし、この騎士が広場の様子を見ながら言葉を覚えたのだとしたら、練習や訓練という言葉を使っても、結びつける行いは見つからないだろう。 喧嘩は何度かあったと聞いているが、殺し合いに比べれば決闘に近いだけで、決闘ではない。 「一番近いのは訓練なんだけどなぁ。なんだっけ」 「模擬戦?」 とアンが答える。 「そう、それ。決闘ってあれに近いだろ」 「うーん、今から見てもらうのはできないよねえ」 三人は腕を組んでしばらく考える。 「アンお姉ちゃん」 「なぁに?」 「絵を見せたらどうかな?」 「アン、お前、絵なんて描いてたのか」 「悪い?」 「いや、こう、がさつな感じがあっ」 みぞおちに一発食らってトーマスが無言になる。 かばんからクロッキー帳と鉛筆を取り出すとささっと描き始めた。 そして、描き上げた絵を順番に見せる。 まず一枚目の絵では軽装で木製の剣を持った兵士二人が対峙していた。 「武器は怪我をさせないようなものを使うの」 騎士は動かない。 二枚目で戦う様子が描かれているが、血などは出ていない。 「怪我はさせたらダメだからね」 三枚目では兵士の一人が剣を手放していた。 「相手が剣を手放したらそこで終わり」 騎士は首を縦に振った。 三枚目には先ほどまで戦っていた兵士二人が握手している様子が描かれていた。 「こんな感じのことをするの。わかった?」 騎士は再び首を縦に振った。 そして、もうひとつ動きを見せた。 左の肘を左手で掴んだ。 右手が何かを掴んで引っ張り出している。 黒い金属の板だった。 「これは――」 と手を伸ばしたアンを騎士が制止する。 「それ、魔獣を真っ二つにした剣じゃないか」 いつの間にか復帰したトーマスが縁を見てみろよ、と言葉を続けた。 「薄くなってる……?」 騎士は左手で右の肘を掴み同じように黒い剣を取り出して床においた。 「何をやるかは伝わったようだなぁ」 トーマスが肩から力を抜きながら言った。 緊張していたらしく、体のあちこちがこわばっていた。 「アンの絵に救われたぜ」 「でも、こうやってずっと説明はできないなぁ」 「なんでだ?」 「トーマスだって家の手伝いしてるでしょ。私だって手伝いがあるの」 「あー、そうだなぁ」 「それにそんなに上手じゃないし」 声の調子からしてこちらが本当の理由かもな、とトーマスは思ったが伏せておく。 扉をノックする音がして、こちらが返事するよりもはやく扉が開いた。 「時間です。騎士殿はこちらに。皆さんは観客席に移動してください」 案内の兵士に連れられて歩いて行く騎士を三人は見送った。