wired raven

文字通りの日記。主に思ったことやガジェットについて

アドストラトスフィア

1. 3ヶ月前 EW内大陸間非戦闘海域上

「時間ね」
スグリは甲板から船内に戻る。
エンジンの音も波の揺れもほとんどなく、金属のフレームのある丸い窓や白く塗られた金属製のタラップがなければ、陸にいると勘違いしそうだ。
狭い通路をつかつかと歩くスグリの後ろをヘゲルが配管に頭をぶつけながら着いてくる。
後ろから痛い、とか、うへ、とか、ふぬ、とか聞こえるのを無視して、スグリは会議室になっている3等客室に向かう。
客室といわれているが敷居のない広い部屋だ。
本来は雑魚寝したりして使うものだが、今回は会議の場としてプロジェクターとスクリーン、ほかにも会議に必要な機材が用意され、参加する人間も集まっている。
二人が部屋につく頃には参加者の多くが集まっていた。
それでも開始時間の10分前だ。
この場で行われる話への関心の高さがわかる。
「すげぇ人だなぁ」
「ことがことだもの。集まりもするわ」
がやに耳を済ませれば、何が原因なのか、どうすれば良いのか、推測から憶測、希望まで様々な発言が飛び交っていた。
自分の名前のかかれたプレートのある席に座って資料に目を通す。
全長50m程度の小天体が発見された。
問題はその惑星の速度と軌道だった。
光速の49%という速度で移動するその小天体は、3ヶ月後に彼女らのいる惑星に衝突する。
2つの大陸に存在する天体観測を主に活動するギルドがそれぞれが軌道を計算した結果だった。
「まるで映画のようだわ」
スグリは笑う。
「笑う状況かよ」
とヘゲル。
「ここは楽しむところよ」
「お前のその姿勢はすげぇなぁ」
照明が落とされ部屋が暗くなる。
雑談が止まり、視線が正面のスクリーンに集まっていく。
演台に立つのは天体観測ギルドの一つROSSのギルドマスターだ。
ROSSはフォースリット大陸最大の天体観測ギルドで、他の天文観測ギルドの支援、ギルド間の情報交換なども行うまとめ役のギルドでもあった。
「ROSSのギルドマスター、ダークマターです。あまり、慣れてないのでよろしくお願いします」
と彼はぺこりとお辞儀気をした。
「もう少し良い名前にしておけば良かった、と後悔してます。それはおいて、本題に入りたいと思います」
スライドが表紙から次の目次に入る。
「まず今回の流れはこんな感じです。今回、発見された天体ファルクラムの概要、次にディスカッション……と説明するのがあれですね」
ダークマターは苦笑いしつつ、次のページへ。
スライドにはファルクラムの写真が大きく映し出されていた。
光を帯びていて中心核はわからないが、
「彗星に類する天体と思われます」
彼は先に結論を述べて、補足に入った。
「ファルクラムは他の彗星と異なる質量の変化が全く見られません。彗星は氷の塊のようなもので、尾は蒸気と言えます。光っている限りは質量は減少するのが常識でしょう。しかし、先も述べたようにありません」
実態はよく掴みきれていない未知の惑星です、と彼は続けてスライドを切り替えた。
次に出てきたのは彼らがいるスフィアを含む太陽系図だ。
「これがこのゲームの太陽系です。ファルクラムは太陽系外から光速の49.19%で太陽をかすめる軌道で移動しています」
太陽系外から曲線を描いて飛来するオブジェクトがある。
ファルクラムだ。
曲線は太陽の横をすり抜けて伸びていく。
その線の先に彼らのいる惑星「スフィア」があった。
「天体のサイズは50m程度ですが光速の半分の速度です。激突すれば地上は壊滅すると推測されています。詳細な情報は共有スペースにアップロードしています。場所は手元の資料を御覧下さい」
と言い終えてから、
「何か質問はありませんか?」
彼の言葉にその場にいたメンバーは顔を見合わせて苦笑した。
現時点でわかっている情報はこれがすべてで、何か対策を取らねばゲームオーバーだと誰もが良く分かっていたからだ。
「では、これよりディスカッションに入ります。細かい情報は皆さんの端末から確認できますので参考にしてください」