宣言通りの射撃が来るに違いない。
だから、私はコンテナを蹴って身体を斜め前へ。
相手が構えているのは狙撃用の銃で、近距離での取り回しは良くない。
元の位置でもお世辞にも良いとは言えない。
それに近距離にいけば、あの男の魔術も無力化できる。
左手の方を銃弾が通り抜けていく。
走りながら手にするのは対自動人形用の硬質ナイフだ。
装甲服ごと貫くには少々、心許ないが魔術で身体能力を強化している今ならいける。
「もらった」
口から漏れるのは勝利宣言にも似た何か。
でも、勝てるから、勝ったから何だというのだろう?
彼がいないのなら意味がない。
勝っても嬉しくない。
きっと、負けても悔しいなんて思わない。
突きだしたナイフが相手の細い身体を貫通するのがわかる。
自動人形らしい硬い感触。
ナイフを引き抜こうとして、
「抜けませんよ」
腹にナイフを刺されたままの少女が告げる。
身を硬くする私のナイフを持つ手を両の手で掴み、
「逃がしもしませんよ」
「これ以上、続けると報酬がゼロどころかマイナスになるしね」
背後から聞こえるのは青年の声。
この二人、仲が良いように見えるのになんて冷たいのだろう。
動揺の欠片すら感じられない。
プレイヤーは人以外の何かかも。
詠唱の声も聞こえる。
風系の魔術を使うつもりらしい。
風より氷の方が似合いそう。
「風よ 切り刻め!」
周囲の空気が流れる。
そこまでは感じることができた。
デッドダウンで暗くなる視界には少女の微かな笑みがずっと、見えていた。
最寄りの拠点に戻りますか? / キャラクターをデリートしますか?
ヘッドマウントディスプレイに白い文字が点滅している。
背景が黒いだけに余計に目立つ。
染みるのは疲れているから?
それとも、悲しいから?
何も考えることも感じられることもできない。
ディスプレイを放り投げるように外して、私はソファに身を投げた。