wired raven

文字通りの日記。主に思ったことやガジェットについて

アドストラトスフィア(7)

7. 2週間前 現実世界 田辺宅

居間の卓球ができそうなぐらい大きなテーブルいっぱいにロール紙状のディスプレイが広げられていた。
「持ってて良かった」
と楽しそうに言ったのはディスプレイの主の伊藤だ。
「皆で話すとなるとこういうのは必要だな」
「無駄遣いかどうかは使い方で決まるんだ」
日ごろ、何か買えば無駄遣いと言われるためか伊藤が力説する。
「運用は重要だ」
エリスが同意すると伊藤はありがとう、と感動した声で言った。
「お前、日ごろから衝動買いしてるから嫁にいじられるんだ」
「だよなぁ」
伊藤は苦笑いした。
ディスプレイの近くに仮想情報空間端末を置くと、ディスプレイと端末が自動でリンク、ディスプレイに図が浮かび上がってきた。
「これがあのゲームの、太陽系か。はじめて見る」
と伊藤。
彼もEWのプレイヤーで機竜乗りだった。
「太陽系外のこの空域でファルクラムの軌道変更を行う」
エリスがディスプレイの端の方に円を描いた。
指の動きを追って赤い線が走る。
「もっと、外までは飛べないかな」
相手は光速の半分の速度で移動する物体だ。
ここで迎撃を誤れば数十分後には惑星スフィアに到達する。
「機竜が太陽系外でも飛べるかわからない、というのがここで修正をする理由だ。確か」
田辺の説明にエリスが頷いた。
「軌道修正にはエーテルを使った魔術弾頭を用いる。爆発の力で軌道をずらす」
「これだけ見るとシンプルな作戦だ」
田辺は腕を組んだ。
「厄介なのはやっぱり、妨害してくるギルドかね」
伊藤は髪の短い頭を掻いて、端末を操作した。
テーブルの上のディスプレイが大陸地図に変わった。
「全ギルドのうち3分の1は敵で、中にはエーテル・リアクターを所有するギルドもある。厳しい戦いになるかも」
「そういった敵の包囲網を突破して、宇宙にいかなければならない、か。やりがいがあるとも言える」
田辺の発言に伊藤は前向きだなぁ、と笑った。