wired raven

文字通りの日記。主に思ったことやガジェットについて

ゴーイングダウン・ブラック・アウト(5)

ログイン、キャラクター「田辺」選択。
名前は同じだが種族は自動人形だ。
高機動戦闘に耐えられる高い強度を持つ人工の身体。
室内の光景を透過していたHMDがゲーム内の光景を映し出す。
目の前に広がるのはブラック・アウトのコックピットだ。
計器類は大きく変化し、1つの大きなディスプレイに統合されていた。
一番の違いは操縦系だ。
従来の操縦桿やサイドスティックだけではなく、ヘルメットに搭載されているセンサーがパイロットの思考を読み取り、機体がそれに従う。
田辺はこの機体のためにキャラクターを削除し、作り直した。
新しいブラック・アウトには新しい自分が必要なのだと。
身体をシートに沈めて、外を見上げると黒い鱗が広がっている。
増速用のブースターを搭載したブラック・アウトを高々度まで竜で牽引する作戦だ。
『聞こえるか』
問いかけてきたのはエリスの声ではない。
『聞こえる。良好だ』
『私が協力する理由を知っているか?』
声の主は上の竜に違いない。
『悪いが知らない』
『話していないのだから、知っている方が恐ろしい』
気分を害したわけでもなく、竜は落ち着いた声で話を続ける。
『エリスは我々の同胞だ。同胞のために協力している』
わかった、と返事しようとする田辺を遮り、
『同胞は貴殿もだ。田辺 一騎』
本名で呼ばれても田辺は驚かなかった。
現実世界においての同胞という意味なのだろう。
ゲーム内に限られているものではない。
竜はその特性上、人間がプレイするのは難しい為、アンドロイドや電子生命がプレイする種族だ。
この竜も人間ではないと田辺は考えたが、詮索はせずに短く答えた。
『感謝する』
『ブースター使用可能高度到達。ハル、協力に感謝する』
『仮想カタパルト展開。進路上に障害物無し』
肉眼でカタパルトは見えない。
が、エーテルが直線上に流れカタパルトを構築している。
『射出はこちらで行う。準備はできたか?』
竜の問いに田辺とエリスは同時に答えた。
『当然だ』