「我々に協力する善良なプレイヤー諸君に感謝したい。ファルクラムを所持するプレイヤーたちは自分たちのやっていることがよくわかっていないようだ。彼らの行っている行為はゲームの秩序を壊す行為だ。秩序の崩壊は避けなければなるまい」
誰もが運営の、ゲームマスターの声に耳を傾けている。
彼の声とコンピュータの駆動音がCDCの中にあった。
「正義は我らにある。全能力を持って彼らと戦おう。通常の攻城戦と何ら変わりはない。違いがあるとするなら、勝利して手に入るものが土地や金ではなく、この世界の明日だ」
演説が終わると同時、CDCに音と動きが戻る。
「まずは近衛を削ろう」
『敵、機竜群が超長距離ミサイルを発射。各機迎撃を!』
レーダーにはこちらに向けて飛んでくるミサイルが無数に映っている。
こちらの機竜群が迎撃ミサイルを発射。
ブラック・アウトも迎撃ミサイルを全弾発射。
それでも、敵の放ったミサイルの方が多い。
田辺は右にあるサイドパネルを操作、AMS、最大射程で起動。
『ナイト1より各機へ。死ぬなよ』
『ナイト3よりナイト1へ。それは死亡フラグですぜ』
彼らの調子はいつもと変わらない。
特にいつもの戦いと変わらない。
ブラック・アウト、敵ミサイル群をAMSの射程に捕らえる。
機体各部に設けられたレーザー銃がレーザーを放つ。
弾頭を熱せされたミサイルが起爆していく。
『田辺、ミサイルの側面に大鎌のロゴを確認した』
「運営がついている、か」
『全機に通達、敵は死神だ。運営様だ』
『今さら引き下がれるってのか』
『運営がどうした。俺がやってやる!』
『これが最後の望みなんです。せめて、彼女を空にあげさせてください』
落ち着いた男の声だ。
騒々しかった無線が止まる。
『ゲームクリアか』
誰かが問う。
『4月から仕事でネット繋がらないところにいくもので』
『そりゃクリアせざるを得ないよなぁ』
頷く声がいくつか。
そして、数秒ほどの沈黙。
『CICより全軍へ。これは卒業パーティよ。盛大に卒業生を送り出しましょう』
聞き覚えのある声、スグリだ。
『全機ではなく全軍よ。いつも通り、全力で楽しみなさい』
『感謝します』
『別にあなたの為ではないわ。私の為にやっているの』
『我が儘な姫様ばかりだなぁ』
『不和の女神もいるぜ』
『そういや、居たな』
『こちら、ラースタチュカ』
場違いな少女の声。
『この声の聞こえる人、すべてに感謝と祝福を』
続いて聞こえるのは歌声だ。
音は無線からではない。
サブディスプレイにあるエーテル濃度計が上昇を始めている。
戦闘が長引けばエーテルが消費され下がるはずだ。
「エーテルが歌っている?」
『ラースタチュカを中心にエーテル濃度の上昇を確認。なおも上昇中』
機体の遙か後方、緑色の粒子が蛍のように舞っている。
それは乱舞とも言って良かった。
光は強くなり、緑から白に変わっていく。
「あれが、亜エーテルをエーテルに変える光……」
「あれを使えば、宇宙まで飛び出せる。だが、その力は一部のプレイヤーだけが行使するものだ。自由ではない」
男は続ける。
「時期尚早なのだよ。あの技術は」