wired raven

文字通りの日記。主に思ったことやガジェットについて

続・続々・流行モノ

『敵機竜隊が動かしたか。ゴーストアイからゴースト全機。肝試しの時間だ』
ゴースト3の眼下には敵の空中空母が見える。
護衛についている機竜は10。
こちらの2倍だが10倍に比べればたいしたことはない。
一人で2機落とし、ついでに空母を落とせば良い計算だ。
ゴースト隊、V字隊形を右から崩して、交戦を開始。


「本艦直上に機竜隊出現、防衛隊の半数が撃墜されました」
「G-1、G-4、G-7、G-8、G-10が交戦中」
『CDC、敵の姿が見えないぞ。どうなってる!?』
「敵はレーダーステルス、光学ステルスの両面を装備しているようです」
『すべてのセンサーに引っかからない敵なんて―』
「G-8、ロスト」
「G-4、G-7ロスト!」
「護衛の艦はどうした?」
「敵が本艦と密接しているため、攻撃不可能です」
護衛艦スターフィッシュ、機関部破損、航行不能!」


草むらに身を潜めながら、正面のレーダー基地を見る。
戦況は先から傍受しているが、あまり、芳しくはないように思える。
「好きでやっている、か」
「お前は強制されてやってるのか?」
横にいる少年が問う。
少女が横に首を振ると、赤い髪の毛が柔らかく揺れる。
「ボクも好きでやってるから」
「雑談は終了だ」
彼女たちの後ろにいる男が告げる。
「行動開始だ。目を潰してやれ」


「演出好きばかりね」
スグリは目の前にいる青年に言った。
「ノリが良い人たちばかりでよかった。感謝していますよ」
臆せずに少年は答える。
「ラースタチュカが飛ぶまで残り128秒、時間に狂いは無いわね」
「ええ、彼女は飛べます。条件は揃ってますから」
「条件、ね」
エーテルも、亜エーテルも、機体も、ラースタチュカも、観客も揃ってますから」
『ゴーストアイよりCIC、肝試しは終了した』
『目つぶし隊よりCIC、目つぶしは完了した』
「やることは終わったわ。後は信じましょう」
「神をですか?」
「そんなものはいないわ。彼らを信じるのよ」


『ラースタチュカ、飛行開始まで30秒!』
カウンターの数字を確認する必要はない、と田辺は思う。
操縦桿を握っているよりもはっきりと、エリスのやりたいことがわかる。
今はラースタチュカの安全と進路を確保することが優先だ。
余計な感情と思考は無いものとして扱い、目標を達成することのみを考える。
エリスを知る為にはそれが最も良い方法だ。
敵の高機動ミサイルが6発、こちらに食いついている。
疑似熱源やAMSは使わず、機首を地面に向けて急加速する。
ミサイルもそれについてくる。
周囲のエーテルを燃料とするタイプだ。
ブラック・アウト、機首下部と機体後部にあるスラスターを噴射、翼面制御。
一瞬にして機体が空を向く。
田辺、急激なGに身体が壊れる感覚。
それを無視し、ブラック・アウトは空に向けて飛行を開始する。
敵ミサイルも一瞬遅れてブラック・アウトを追尾。
正面には敵機竜の腹が見える。
無線機からはラースタチュカの歌声が聞こえる。
雲を、音の壁を越えて遙か高空を目指す歌だ。
エーテルが僅かなラグを伴って歌う。
その機竜すれすれをブラック・アウトがすり抜けた。
ブラック・アウトの起こした衝撃波に敵の機竜は一瞬、コントロールを失い横に流れた。
ミサイルとブラック・アウトの間に入る形だ。
6発のミサイルが機竜に命中、巨大な爆発。
編隊を組んでいた他の機竜をも飲み込み焼き尽くす。
『ラースタチュカ、上昇開始まで残り5、4、3、2……イグニッション!』
ブラック・アウトの前方、光の柱が空に向かって伸び始める。
歌声がさらに強くなり、光と速度が増していく。
『ラースタチュカより全軍へ。ありがとう』
少女の言葉に数秒遅れてから、歓声が無線機から溢れる。
肉眼でもブラック・アウトのカメラでもラースタチュカの姿は見えない。
それでも彼女が飛んでいるのは軌跡でわかる。
さらにもう一つ、
「オーロラか」
血で汚れたバイザーを外して、上を見れば空には光のカーテンが見える。
エーテルエーテルに変化する際に見られる現象だ。