「起動しないのは重症ね」
カシスは電源ボタンを押しても反応しないパソコンを見ていった。
見た目に変化はないし、臭いもない。
同居人がトラブルシューティングの記録に使っているノートを確認しながら、カシスは作業を進める。
このノートの記述を信じるなら、ハードウェアが壊れている可能性が高い。
「ケースを開けても良いかしら?」
「うん、全部任せるよ」
「わかったわ」
電源ユニットのスイッチを切り、各種ケーブルを丁寧に抜いていく。
何も繋がっていないことを確認して、カシスはパソコン本体を持ち上げる。
思ったよりも軽い、とカシスは思いながら、床に広げた新聞紙の上にそっと置いた。
ケースのふたを外すと緑色の基盤とそれに付随するパーツ群が姿を晒した。
小さなケースの中にぎっしりと部品とケーブルが詰め込まれている。
「はじめてみた」
と横から瞬子。
「私もよ」
とカシス。
「でも、手慣れてるね」
「よく見ているからよ、きっと」
「すごいね」
「見よう見まねでうまくいったら、ね」
中を見ても特に変な様子はない。
ノートに従って、部品を構成している細かな電子部品レベルで何か問題があるのか調べる。
「何をしてるの?」
「コンデンサが膨らんでいないか確認してるの」
ノートには円筒状の電子部品のスケッチが描いてあった。
左側には正常のもの、その隣に全体的に丸みを帯びたものが描いてある。
「膨らんでいるのは寿命のようね」
ノートの隅にはそう書き込まれている。
「でも、なさそう」
と瞬子。
「そうなると、何処かパーツがおかしいのでしょうね」
一見、何も起こっていないパーツ群を見回してカシスは言った。
「少し時間がかかりそうだわ。ほかのことをやっていてちょうだい」
「でも」
「その方が、気もまぎれるでしょう?」
「うん。あまり、無理しないで」
「ありがとう」
部屋から出て行く瞬子を微笑で見送ってカシスはパソコンとの戦いを再開する。