首を傾げて、
「あれ」
と少女は疑問を口にした。
ついさっきまで自分の部屋にいたはずなのに知らない場所にいるからだ。
「えーっと」
首を右から左にゆっくり動かしてから、
「お風呂場っ」
と叫んでから違うと一人、うなだれてみる。
白い壁、広さは自宅の風呂場に似ているが、湯船もシャワーも小さな腰掛けも洗面器も何もない。
部屋の中に存在するのは自分ぐらいだ。
「ほへー」
改めて周囲を見回してみると、窓もなければ扉も見当たらない不思議な場所だ。
最初の数分は壁を触ったり、床の上ではねたりしていたが、すぐに飽きてしまった。
頼めば誰か扉をあけてくれるかもしれない、と少女は考えて思いついた台詞を叫んだ。
「ハル、ハッチを開けてくれ」
「それはできません。デイヴ」
壁のあたりから男の声が聞こえる。
少女は迷わず即答した。
「デイヴ違うよ?」
「私もハルではない。ハッチもないが、扉はある。開けよう」
少女の後ろで小さな音がした。
振り向くと壁を構成していた板1枚分ぐらいの穴があいていた。
「外も同じかぁ……」
げんなりした調子で少女。
「だが、廊下は広い」
「ほんと?」
目を輝かせて少女は言った。
「確かめる前に着替えたまえ」
「ほへ?」
「自分の格好を確認すると良い」
「わっ」
言われるままに確かめてみると、着ているのは浴衣を簡素にしたようなものだ。
「み、見た?」
「この部屋にカメラはない」
「え、じゃあ、覗いたの? もしかして、すぐそこにいたり?」
「そのようなことをするほど私は暇ではない」
せかすように目の前に透明な袋が現れた。
服の中には何か入っている。
「何、これ」
「君が向こうで着ていた服と同じものだ」
「んー?」
「良いから着たまえ。話はそれからだ」
「覗いたら殺すよ?」
「覗かないから安心するといい」
「覗く人はみんなそう言うんだよねー」
「黙れ」
「変なとこ」
声に従って出た場所は長いテーブルといすが整然と並べられている空間だ。
「食堂だ」
「食堂ってみんなでご飯食べるところ、だよね」
「そうだ」
「ほかにも人がいるのかな。わくわく」
「残念ながら同時に覚醒することはほとんどないのだ」
「ところでさ、おじさん」
「なんだい、お嬢さん」
「名前は?」
「クレードルだ」
「クレードル?」
「話は長くなる。適当に座りたまえ。床には座るな」
「じゃ、テーブル」
「椅子に座れ」
「はぁい」
すごすごと少女はいすに座る。
薄く堅そうに見えたが実際は柔らかく、座り心地は悪くなかった。
「クレードルってゆりかごだよね」
「そうだ」
「んー、クレードルだと呼びにくいから、ゆりちゃんって呼んで良いかな?」
「適当だな」
「あいらぶてきとー」
「では、私も適当にやるとしよう」
「わーい。うぃーらぶてきとー」
はしゃぐ少女を無視して、クレードルは話を進めることにした。
「まぁ、好きなものでも頼んでくれ。先も言ったが話は長くなる」
「適当にやるっていったじゃんかー」
頬をぷうっと膨らませて少女。
「コンピュータが人類を管理している場所がここ。管理しているのが私だ」
「てきとー過ぎー」
「私にどうしろというのだ」
「んー。とりあえず、クリームソーダちょーだい」
「へい、お待ち」
少女の前のテーブルにクリームソーダが出てきた。
緑色のソーダにバニラのアイスクリームが浮かんでいる。
赤いサクランボが2つ添えてある。
「すごーい」
「さて、どこから話をしたら良いものか」
「何処でもいいよ?」
「では、ことの始まりから説明しよう」