今日の出来事を忘れないうちに書き留めよう、と瞬子は帰宅早々ディスプレイに向かった。
が、途中で寝てしまったらしく、起きた時には12時になっていた。
それも呼び鈴で目が覚めるという形だ。
慌てて扉を開ければ、
「あ、カシスちゃん」
「おはよう、瞬子」
「こんにちは、じゃないの?」
「寝起きでしょう。顔を洗ってきたら?」
と悪戯っぽくカシスは笑って、瞬子は慌てて顔を洗いに行きながら、
「あ、上がって良いから」
「お邪魔させてもらうわ」
靴を脱いで右手にある瞬子の部屋に入る。
勉強机用の椅子に腰を下ろして、瞬子の帰りを待つ。
相変わらず、綺麗に片付いている部屋だ、とカシスは思う。
所々抜けている本が抜けている本棚と、その本が積み重なっているパソコン周辺は除く。
が、それでも何故か乱雑さは感じなかった。
「お待たせ」
「食事はどうするの?」
「ひとまず作業してから。忘れないうちに書き留めようと思って」
そう言って瞬子はディスプレイを指した。
PCの前の椅子に瞬子は腰掛ける。
カシスは勉強用の椅子から立ち上がって瞬子の隣へ。
「十姉妹のこと?」
名前は書いていないがおおよそ誰かと見当はついた。
なかなか濃い経験をしたようだ。
「ネタになるから」
瞬子は楽しそうに笑った。
「そう、良かったわね」
「うん。教えてくれてありがと」
「ところで服を脱がされた、と書いてあるけど、何があったの?」
楽しそうな笑みを浮かべたまま、瞬子はゲームの話をした。
自分がこぼしてなし崩し的に罰ゲームになって、脱がされたらしい。
「それはまた、貴重な体験をしたわね」
呆れた調子でカシス。
「うん」
とやはり、笑顔のままで瞬子。
「それに下、ちゃんと着てるから」
「そう言うことではないでしょう。少しは恥じらったらどうなの?」
「恥じらったわ。演技で」
「演技、ね。ここで私があなたにそうしたら?」
「それは、素がでるかも」
「ふぅん」
妖しく笑ってカシスは横にいる瞬子を見下ろした。
「えっ」
「なんて、ね」
素の表情に戻してカシスは言った。
「なんだ、つまんないの」
不満げに頬を膨らませて瞬子。
「あなたは身体張りすぎだわ。少しは大切にしなさいな」
「それはそうだと思うけど……」
彼女の持論の一つに作者の経験の幅がキャラクターの経験の幅に影響すると言うのがある。
脱がされるにしても、本を読むにしてもその経験の幅を広げる行為の一つに過ぎないのだろう。
溜息をついてから、
「昼食は私が用意するわ」
「良いけど……」
「何か不満?」
「カシスちゃんにはしてもらってばかりだと思って」
「困ったときはお互い様でしょう。台所、借りるわね」
笑みを残してカシスは台所に向かった。
何処に何があるのかはわかっているだろう、と瞬子は思いながら作業を再開する。
しばらくすると台所からカシスの声。
「たらこスパゲティで良い?」
「それでお願〜い」
振り返って開けたままの扉に向けて大きな声で返した。
画面に向かいなおして、タイピング再開。
昨晩のうちに手をつけておいて正解だった。
部分的に忘れている箇所もあるが、先に打ったところから想像することができた。
一通り打ち終わるのとカシスに呼ばれるのは同時だった。
返事をしてからファイルを保存し、席を立った。
追記
十姉妹突撃翌日のお話し。
続きは適当にパスワードを入力すると書かれるかも知れない。