「さっきの作戦会議、あれで良かったのかねぇ」
機竜のシートに持たれながら、田辺は言った。
さっきの作戦会議は、竜騎士の視点から率直な意見を述べることに終始していた。
「己の役割は果たした」
相変わらずの調子でエリスは言った。
珍しく、姿を狭いコクピット内に自分の姿を立体表示している。
黒く長い髪、細くしなやかな身体、猫の耳と尻尾は余計として、
「お前を擬人化するとこうなるって感じだな」
「私の開発者の趣味だ」
「なんつーサブカルチャー……」
どんな開発者だろうか、などと田辺は考えてみるが、見当もつかなかった。
「次の作戦は偵察なんだよなぁ」
「推進器はエーテル型を予備に使う」
「旧型であることに救われたわけだ」
「この機竜は安定性を重視している。作られた当時はエーテル型推進器は信頼性に欠けていたのだ」
「まぁ、新しい技術なんてそんなもんだろ。さて、と俺はそろそろ、落ちるよ」
「作戦を放棄するつもりか」
「お前、これ以上、連続でやったら身がもたないぞ。俺は人間だからな」
エリスが声をかける前に田辺の姿はコクピットから消える。
ログアウト。
「さすがに長時間はきっついなぁ」
ヘッドセットを外して、背後にある万年床に転がって、そのまま突っ伏す。
「そろそろ、誤魔化すにも限界があるか」
現実に戻れば、思考も現実に戻ってくる。
考えることは残高であったり、新しい仕事の事。
別に適当に死んでも良いよなぁ、とも思う。
新しく仕事見つけて、覚えて、金を稼ぐ必要性を感じていない。
守るべきものも、何か叶えたいこともない。
「……我ながら子どもだな」
あのエリスに聞かれたらなんて答えるだろうか。
「人間の子どもの方がしっかりしている」
「……!?」
「時間だ」
「ああ、そうか。じゃなくて、どうしてお前がいるんだよ」
「仮想情報空間のチャット技術の応用だ」
「そういや、立体表示のディスプレイも繋げていたっけか」
Webカメラは平面ディスプレイの上に付いている。
起き上がった彼の真正面にある。
当然、彼のだらしない格好から、散らかった部屋まで見えているはずだ。
だが、エリスはそれを気にすることもなく、話を続ける。
「10分後には飛ぶ。私と田辺で、だ」