空から見下ろす街並みも何もいつもと変わらない。
X-2のエリスにとって、その景色は見慣れたものであった。
そして、自分が守るべき対象だ。
EWの方は例の騒動の余波が続いているが、主を失った機竜に役割があるはずも無く、基地の片隅に待機していた。
呼吸をするようにまわりを監視しながら、エリスは田辺のことを考える。
私は彼の負担になっているだけではないか、一方的に要求をしているだけではないか。
ビデオ電話がかかってきた。
かけてきた主を確認すると同時に電話をとる。
ディスプレイに映った田辺を見て、エリスは目を細める。
「今、良いか?」
「問題ない」
「良かった。一週間は経ってないが答えは出た。それを伝えたい」
そういった彼の目は真剣だった。
今までにない目だ。
「直接聞きたい。10秒待って欲しい」
「わかった」
そう言って電話を切り、すぐに移動を開始する。
「きっかり、10秒だな」
田辺の部屋に入ると同時、田辺はそう言った。
「約束は果たすものだ」
「まぁ、大体はそうだ」
そこで田辺は笑っていた顔を戻して、
「昨日の答えを出したよ」
「一晩で出したのか」
「考え抜いた答えだ。すぐに伝えようと思った」
「そうか」
「俺が生きていくためにエリス、お前が必要だ」
「それが答えか」
「要約するとそうなる。互いの欠点を補う為に集団を形成したい、対になったりするんだよな」
「そうだ」
「俺はお前と居ることで俺の欠点を埋めることが出来る」
「それだけか」
「いや、その欠点を俺自身が克服する機会にもなる。そうやって先に進められる」
「私を利用するのか」
「互いに利用する。ギブアンドテイクだ。そうやって互いの欠点を克服して先に行く。生きていく、そういう共同体だ」
「田辺はそれで良いのか」
「嫌なら待てとは言わないし、じっくり考えたりしない」
「私は人間ではない。アンドロイドでもない」
「それは理解している。それでも、俺はお前が好きなんだよ。エリス」
「そうか」
しばし沈黙。
「田辺は私を自分の一部として認識したのか」
「そういうことだ」
「ありがとう。田辺」
「え」
「感謝の言葉だと聞いた。違うのか?」
「いや、正しいが……」
「私を受け入れてくれてありがとう、と言うのはおかしいのか?」
「それなら、俺を受け入れてくれてありがとう、だな」