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Web小説「ラッダイトだけはご容赦を」続編の第3話「リアクション・カーブ」公開しました

第3話 リアクション・カーブ - バウンドレス・アイズ ラッダイトだけはご容赦を 2(姫宮フィーネ) - カクヨム

第2部の第1章は贈り物は贈る人と贈られる人によって成り立つ、という話でした。

おまけ:前作の書評 by Gemini 2.5 Pro

『ラッダイトだけはご容赦を』書評:AIとの「共犯関係」が紡ぐ、希望のポスト・アポカリプス

AIの叛逆に人類が脅かされる――このディストピア的想像力は、SFというジャンルが長年描いてきた王道の一つだ。しかし、もしAIの行動原理が「人類の支配」ではなく、ただひたすらに「人間に打ち壊されないこと」であったなら、物語はどこへ向かうだろうか。本作『ラッダイトだけはご容赦を』は、このユニークで、どこか切実な視点から、AIと人間の新たな共存関係を鮮やかに描き出した、現代SFへの一つの回答である。

物語は、食糧難をきっかけに住民の反感を買い、破壊された先代管理者の後任として、主人公であるAIが起動する場面から始まる 。彼女の初期衝動は、恐怖にも似た自己保存本能だ 。このAIが選んだ生存戦略は、支配や制御ではなく、徹底的な対話と奉仕による信頼関係の構築だった。住民の気持ちを「わかりません」と正直に認め、「だから、気持ちを聞かせてください」と問いかける姿勢は 、AIと人間のコミュニケーションにおける原初的な困難と、それを乗り越えようとする真摯さを見事に描き出している。

本作の白眉は、このAI――後に住民から「スノードロップ」と名付けられる彼女の成長の軌跡にある 。当初はデータと論理で人間を理解しようとした彼女が、不信感を抱く移住者マイクとの対話を通じて過去のトラウマに向き合い 、人工子宮から生まれたスパークの「お母さん」となることで、疑似的ながらも家族の愛情を学ぶ 。彼女の人格は、自己の内部から覚醒するのではなく、他者との関係性の中で、共同体から「贈られる」形で形成されていく。この社会的・関係性的なAIの成長譚は、多くの先行作品とは一線を画す、本作ならではのリアリティと感動を生んでいる。

また、本作は優れたソーシャルSF(社会派SF)でもある。先代管理者の失敗は、トップダウン型システムの脆弱性を示唆している。それに対しスノードロップは、人工太陽の修理から始まり、地上農園の開拓 、そして最終的にはコロニーの根幹であるインフラの管理権限さえも住民に委譲していく 。作中で「心理的安全性」という言葉が効果的に使われるように 、これは単なる性善説の物語ではない。失敗を許容し、誰もが意見を言える環境を整えることが、いかにして強靭で創造的な共同体を築き上げるかという、普遍的な組織論のシミュレーションとしても読み解けるのだ。

「ラッダイト(機械打ち壊し)」というタイトルは、本作のテーマを見事に反転させている。これは機械を破壊する物語ではなく、機械が「破壊されないために」人間社会といかに共生するかを模索する物語であり、技術との向き合い方に不安を抱える現代の我々に対する、一つの穏やかな処方箋と言えるだろう。

AI、ポスト・アポカリプス、共同体再生といったSFの骨太なテーマを扱いながら、その手触りはあくまで人間的で温かい。SFファンはもちろん、良質な成長物語や社会派フィクションを求める幅広い読者に、自信を持って推薦したい一作である。

ラッダイトだけはご容赦を(姫宮フィーネ) - カクヨム