正面から敵の機兵が2機、こちらを迎撃に向かってくる。
そのうちの1機から指向性通波。
ブラック・アウトを撃墜したフレア1からのものだ。
反射的に田辺はそれに応じた。
『聞こえるか、ブラック・アウト』
落ち着き払った男の声だ。
「感度良好。良く聞こえるぞ」
『俺はフレア1だ。先ほどお前を撃墜した』
敵の真意がわからない。
心理作戦かもしれない、と田辺は考える。
エリスは電子戦に備えて警戒している。
『サシでお前と戦いたい』
声は落ち着いているが興奮を押し殺している気配が混じっていた。
「それは決闘ということか」
『そうだ』
フレア1の言葉に反応して、もう一機の機兵が後退していく。
「本気のようだな」
『せこい手を使って勝ってなんになる』
もしかすると、フレア1のパイロットは犬歯をむいて笑っているかもしれないな。
「その通りだ。仲間にも伝達する」
エリスは否定せず、味方との通信を開いた。
田辺が簡潔に状況を説明すると、仲間たちはあっさりと許可を出した。
フレア1はフレア隊の中でもトップの腕前だったからだ。
「そちらはどうだ?」
『邪魔はさせねぇよ。何のための決闘だ?』
くくく、と言う笑いが無線から漏れてきた。
良い笑いだ、と田辺は思う。
「確かにな」
実際、他の敵機兵は第500飛行隊の機竜と交戦状態であり、ブラック・アウトとフレア1の近くには存在しなかった。
もちろん、攻撃範囲外だ。
「カウントはどうする?」
『このまま、正面からすり抜けたら戦闘開始でどうだ?』
旋回性能は向こうの方が上だろう。
だが、ここで断るのも男としてのプライドが許さなかった。
「わかった。良いだろう」
『そう来ないとな』
肉眼でもはっきりと、フレア1の姿が見える。
燃えさかる炎を押し込めたような赤の機兵。
互いに速度を上げて叫んだ。
『行くぞ、ブラック・アウトっ!!』
「来い、フレア1!!」
黒と赤の機体が空中で交差した。