wired raven

文字通りの日記。主に思ったことやガジェットについて

状況分析

プロジェクターで映し出された映像を第403飛行隊のマスターのシグマが指さしながら説明する。
その説明を関係ギルドのマスターたちが静かに聞いている。
静寂が破られたのはエーテル濃度の急激な低下の説明に入ってからだった。
最初に質問を投げかけたのは第503攻撃隊のギルドマスターの自称壊し屋だ。
「つーことは現存するエーテル兵器は軒並み使用不可能ってことか?」
「このエーテル濃度の急激な減少が目標によって引き起こされたのならそういえる」
「他に要因があるのか?」
エーテル濃度減少は自然発生することもある。絶対的に目標が起こしたとはいえないだろう」
「はっきりしねぇなぁ」
「無理を言っても仕方ないわ。記録がほとんど残せていないのよ」
そう言ったのは第403飛行隊のメンバーではなく、エンケの空隙のギルドマスターのスグリだ。
「んな悠長なこと言っている場合か? 奴が動き出したら、サウスフォレストどころか、近くの街や城が」
スグリはため息をついて、
「私たちが言い争っても仕方ないわ。目撃者はいるのでしょう?」
「ああ、別ギルドの者だがいるぞ」
そうシグマが言うと、後ろの方で手を挙げた男がいる。
「あー、第500飛行隊の田辺だ。よろしく」
「生還おめでとう、田辺。機竜の方も連れてきたのでしょう?」
『いるぞ』
声だけがスピーカーから聞こえてくる。
「エリス、表示にこの端末は使えないか?」
田辺はポケットから携帯端末を取り出した。
端末は小さな正方形のものだ。
ホログラムキーボードと3Dディスプレイを積んでいる。
『試してみよう。固有アドレスをこちらに転送して欲しい』
「わかった」
そのやりとりを見ながら、スグリが一瞬、少し驚いた表情を見せたが室内にいる人間は誰も気づかなかった。
「これで良いな」
端末を床に静かに置くと同時、黒髪で目つきが少々、鋭い少女が映し出された。
『第500飛行隊4番機「ブラック・アウト」のエリスだ』
「うお、猫耳少女が二人っ それもツンデレっ」
ギルド冷凍食品保管庫管理室のマスターの叫びを始まりに室内がざわめき始めるがすぐに静かになった。
その猫耳の少女でツンデレに該当するかも知れない少女二人が鋭い目で、室内を見回したからだ。
静かになったが、多くの男が静かに拳を握りしめたのだった。
ああ、このゲームやってて良かった、と。
「あー、マスターの皆様はやる気あるのかね」
田辺は呆れながら言った。
「これは興味深い事象だが、今必要なことではない」
「戦闘に関連する情報は先にスライドで見てもらった通りになるな」
スグリはすかさず、右の手をあげた。
司会代わりのシグマが指名する。
「先の話であがったエーテル濃度低下現象の原因は目標かしら。直感で良いわ」
質問に田辺は頭をかきながら、
「どう考えても、目標だろう。確かに近くの森でガーゴイルとドラゴンの討伐はしていたが、エーテルの消費量はそんなじゃなかった」
「それはこちらのシミュレーションでも出てるねぃ」
ギルド予報士の卵のマスターアメフラシは言った。
「何でそれをすぐに言わなかったのさ」
横にいた補佐らしき男が突っ込む。
「だって、適当に組んだ奴だよ?」
「それでも、あんたのシミュレーションと合致したわけだ」
「シミュレーションと合致したことと、同じ条件や原理であるのは別問題だ」
とエリス。
「まぁ、それはおいといて、十中八九、目標が原因だと俺は思う」
「他に要因があるとしても、そうした方が良いと思うよん」
「やはり、エーテル吸収効率の高い機竜で行く必要性があるか」
シグマは腕を組み直して言った。
室内にいるギルドのマスターのほとんどがうなずいた。
そうして、手元の端末を操作すると、プロジェクターの映像が切り替わり、ギルドの樹形図どなった。
「そのタイプのギルドはこうなるわけだ」
機竜を所有するギルドの名前が太字で強調される。
「で、俺たちはいつまで此処にいればいいんだ?」
田辺はまわりのギルドマスターたちに訊ねた。
「これから作戦会議よ。もう少し、意見を聞かせてちょうだい」
「メンテナンスしないとまずいんだが」
「メンテナンスは既に済んでいる。いつでも飛べる状態だ」
エリスの言葉に田辺は小さな声で、お前は正直過ぎるんだよ、とこぼした。