wired raven

文字通りの日記。主に思ったことやガジェットについて

軌跡

『調子はどうだ?』
『今日なら何処までも行ける気がする』
『そうか。存分に飛んでくれ』
『了解』
 短い通信を終えると、彼はシールドの向こうの青空を見据える。飛行速度を上げるためには人の形をしたアンドロイドでは空気抵抗が大きすぎる。そのため、今回の飛行実験ではシールドジェネレータを積み込み、進行方向に向かって鋭角のシールドを展開して空気抵抗を減らそうとした。結果は、
「悪く無い」
 シールドの形状を調整すれば、どんな速度でも空気抵抗を抑えることが可能だ。彼はそのことを嬉しく思いながら、速度をあげて良く。そして、シールドの形状を変えていく。
 これなら、本当に何処までも行ける、と改めて考えたときだった。強烈な風が真上から吹きつけ、身体のバランスが一気に崩れた。咄嗟に身体を制御しようとした時には、刃と化した風が二重翼を砕く。構わず、シールドを全方位に板状に展開し無理やりに減速、速度が落ちたところで再びシールドを鋭角に展開し、推力をあげて態勢を立て直した。
 状況を確認する。翼面積の減少、残りエネルギーわずか、フレームに致命的損傷20ヶ所……こうやって飛んでいるのが奇跡だ。彼はため息をつきつつ、苦笑いを浮かべて上方の空を見た。あれだけの風が吹き荒れた割に静かな青だった。
『トラブルがあった。が、飛行に問題は無い』
『……』
 相手の沈黙に苦笑、飛行データからこちらの状況はわかっているのだろう。
『最高高度のテストに移る。観測は任せた。以上、通信終了』
 沈黙が破られる前に通信機を投げ捨て、全身にありったけの力を込めて命令を出す。身体は速度を上げることと真上の上昇で応じる。
 振り返ると白い軌跡がずっと続いている。それが飛行機雲というものなのか、自分の欠片かはかわらない。意識も身体も上を見ることを望んでいる。前を見ると青は濃い青を通り越して黒になりつつある。
「ああ、これが――」
 彼の言葉は爆発と共に空に消えた。