6. ニーレン外れ「キムラ研究所」
小天体が衝突するという事態はプレイヤーたちの視線を宇宙に向けた。
最大の変化は宇宙空間を満たしている亜エーテルを魔術などに使えるエーテルに変換するエーテル・リアクターの実用化と爆発的普及だ。
ギルド間の技術的連携、開発競争、妨害工作、技術力を理由とした連盟の見直しなどがおこった。
クエストの依頼はリアクターの試験、素材の回収などが多くなり、裏ではギルドの襲撃依頼などもされているようだった。
通常の素材回収やモンスター討伐は割合的に減ったがアリウムは好んでいつもの依頼を受けていた。
今回は以前、廃棄都市で素材回収を頼んできた依頼主の別の依頼を受けてみた。
ニーレン近くにある古い村の石壁のブロックを3つほど拾ってくるものだ。
特に敵に狙われることもなく、アリウムは3つのブロックを手に入れて、依頼主のいるキムラ研究所までたどりついた。
研究所という名前がついているが、住宅街の中央に存在する見た目はいたって普通の建物だった。
鉄筋コンクリート製の地上2階地下1階の建物で、1階と2階のそれぞれ半分が事務所、残り半分と地下1Fが住居部分の構成だ。
呼び鈴を鳴らすと、ややあってから依頼主の男が扉をあけて、
「いつも助かるよ、ありがとう」
と言ってアリウムを中に招き入れた。
窓際にある応接セットの柔らかいソファに二人は机を挟んで向かいあう形で座った。
「ありがとうはこっちのセリフだよ」
「というと?」
この研究所の主であり、依頼主の木村はフレームなしのメガネを外して、アリウムの顔を見た。
アリウムはストレートに言った。
「ゆっくりできるクエストが減ってるから」
「なるほど。今はファルクラムを落とすことに躍起だからだね」
「失敗もできないし、雑談する余裕もなかったりするんだよ」
ため息混じりに赤髪の少女はぼやいた。
「ああ、でも、ちゃんと仕事はやってるよ」
満面の笑みで回収してきたブロックを物理法則を無視した鞄から取り出した。
「状態がいいのと、悪いのと、その間ぐらいの」
「良く見つけたね」
あまり、角の丸くなってないブロックを指さして、
「ブロックが崩れて山になっているところから掘り起こしてきたんだ。ほかのも近くから」
「良い仕事なので報酬は上積みだ」
「ありがとう」
「しかし、あなたはあのお祭りには参加しないのかい?」
「ボクがいるギルドはあまり、戦いに力を入れてないから。今でも手伝いはやっているし、当日は歩兵で参加するつもり」
「それは忙しいね」
「木村はしないの?」
「私はそういうのに興味がないのでね。石とにらめっこしているほうが性に合う」
「そうなんだ」
木村はゆっくり頷いてから夏の白い日差しが降り注ぐ外を見た。
町の外れにある研究所からは古風な町並みがよくわかった。
「それに今回の戦いが終われば、宇宙開発の技術は爆発的に普及する。きっと、ここでも宇宙への進出が始まり、惑星間の移民も始まる」
「そうだね」
アリウムは木村の言葉に頷いた。
現実世界でも宇宙開発の技術が普及し、民間企業が同盟を組んで宇宙にあがった。
きっと、同じことがこの仮想の世界でも起こる、と想像するのは自然なことだろう。
「そうなった時に私がやっているような研究が役に立つ」
「終わった後のことを考えているんだ。すごいなぁ」
木村はアリウムに視線を戻して、
「私には前に出て戦っている人たちがすごいように思えるよ」
「実感わかないなぁ」
「謙虚で実によろしい」
木村は笑った。