「敵襲!」
兵の一人が叫んだ。
直後、エイダの視界は黒く塗りつぶされた。
ぽつ、と何かが当たる。
何だろう、とエイダは思う。
ぽつ、と再び当たる。
えっと、とエイダは考えようとする。
ぽつ、とまた当たる。
冷たい、とエイダは感じる。
ぽつ。
雨かな、とエイダはそれを意識する。
視界が復帰した。
はっと目を開けて次にやったことは体の確認だ。
ゆっくりと上半身を起こして、腕をゆっくりと動かしてみる。
服は土を被って汚れているが怪我はないとわかるとエイダは草原を見回した。
雨足が強く日も落ちかかっているため視界は悪い。
が、あちらこちらに砲撃のあとがあり、地面がえぐられているのが見えた。
彼女のすぐ近くにもあった。
これで気を失った、らしい。
至近で無傷なはずはない、と理性が告げる。
理由は彼女の横に倒れていた。
最近、同じ部隊に配属された衛生兵だ。
着弾の直前に彼は彼女を突き飛ばして直撃から守ってくれたのだろう。
彼にも傷はないか素早く確かめるとエイダは簡易テントの設営を始める。
とにかく、雨を避けなければ低体温症を起こしてしまう。
本来ならば敵の襲撃を考えて移動すべきだが、彼を運んで移動するのは彼女の力では不可能だ。
見捨てれば一人で安全なところまでいけるがそれは彼女の、ここにいる理由を否定する。
テントは傘のように骨組みと布地が一体になっていて、ボタンを押すとゆっくりと膨れ上がる。
十数秒後、彼女の目の前に迷彩模様のテントができ上がった。
エイダは中を見て異常がないか確認すると、意識を失った相棒を脇の下から抱きあげる。
意識を失った体はとにかく重たいがエイダは全身に力を込めてテントの中まで運んだ。
すっかり二人とも体の芯まで冷え込んでいた。
この状態で怖いのは低体温症だった。
人間の体は37度に近い温度で活動するようにできている。
これより体温が下がると酵素の働きなどが弱くなり、体の機能に問題が出てくる。
教本に書いてあった文章を思い出しつつ、エイダは相棒の服を脱がせようとしてわずかに動きを止める。
何を考えているのか、と頭を横にふってジャケットのボタンを外し、袖から腕を出し、と脱がしていく。
普段なら数人がかりで脱がすか、服を着るので楽なのだが、一人でやると骨が折れる作業だった。
服を脱がせ終わるとアルミ製の防寒シートを彼の体にかける。
エイダも服を脱いで防寒シートを羽織る。
シートが暖かく感じるのは体温がそれだけ下がっているからだろう。
相棒はどうだろう、と彼女は彼の首に触れた。
冷たい。
数秒間考えてエイダは彼の隣に潜り込んだ。
このまま、放っておいたら彼は確実に危機的な状況に陥るだろうから。
熱が逃げないよう彼女は彼を横から抱きしめる。
彼には理不尽な状況から何度も救ってもらっている。
今は自分が救う番だ。
小さな、だが、はっきりとした声でエイダは、
「一緒に生き残りましょう」