彼の勘通り、彼女は見晴らしの良い丘の上にいた。
キャラクターの容姿が本人と同じだったのですぐにわかった。
全力で飛ばしてきた彼をケイは潤んだ瞳で迎えた。
「来てくれると思ってたよ、アズ兄」
それは兄が、ではなく恋人が来てくれたかのような雰囲気だ。
「お前の仕業だろう思った」
そう言って彼はケイを抱きしめる。
左の腕は腰に右の腕は頭を抱く形。
「アズ兄?」
彼の声に感情が含まれないことを怪訝に思って、ケイは顔を上げる。
「何が望みだい?」
「え?」
彼のふっと短く息を吐く音。
続く言葉には優しさが含まれていて、
「何が望みなのか尋ねているんだよ」
「えっと……?」
それでも何か違和感があった。
「僕も怒るんだよ、わからないのかい?」
少女から身体を離すと、彼は少女の左右の頬を左右の手で掴む。
戦闘服のグリップの良いグローブと少女の滑らかな肌の相性は抜群だった。
これ以上はないというぐらいしっかりと掴んで、引っ張る。
「やるにしてももう少しマシなやり方があっただろう?」
それでも彼は微笑を浮かべている。
「いつも通り、後ろから抱きつくなりなんなりすれば良かっただろう?」
言い終えると頬を解放した。
泣きそうな顔で少女は彼を見上げて、
「だって、最近、アズ兄冷たいし。……こうやってゲームする時間はあるのに」
「こっちにも都合があるんだよ。それなら、素直に会いたいと言えば良いだろう」
彼は肩をすくめると、
「彼女は休日潰して本来の仕事だよ」
「じゃぁ、なんで彼女さんがここにいるの?」
「並列処理はアンドロイドが得意とする分野だからね」
「……彼女さんのことばっか知ってるんだね」
「そして君の事は良く知らない。仮にも家族なのに変な話だ」
「他人事みたいに言わないでよ、アズ兄のいじわる……」
「今日、この後は一応、空いているんだ。これが終わったら一緒にでかけないか?」
一呼吸おいて、
「この前、会ったときに伝えておくべきだったよ。今日が休みだったってね。ごめんよ、ケイ」
まだ、痛むのかケイは頬をさすりながら、
「……ほんと?」
「本当さ」
「じゃぁ、すぐに終わりにするね♪」
どうやって、終わりにするかによって事態がさらにややこしくなる恐れがある、とエプシロンは考えて、
「すぐに消せるのか?」
「うん♪ だってすぐに行きたいし☆」
「いや、消すと怪しまれる。増やすのをやめて戦った方が良い」
「えー」
嫌そうな顔をするケイにエプシロンはすかさず提案した。
「僕も手伝うから」
「うん♪」
笑顔でケイは言った。