wired raven : Automatic Wing

文字通りの日記。主に思ったことやガジェットについて

混戦(8)

彼の勘通り、彼女は見晴らしの良い丘の上にいた。
キャラクターの容姿が本人と同じだったのですぐにわかった。
全力で飛ばしてきた彼をケイは潤んだ瞳で迎えた。
「来てくれると思ってたよ、アズ兄」
それは兄が、ではなく恋人が来てくれたかのような雰囲気だ。
「お前の仕業だろう思った」
そう言って彼はケイを抱きしめる。
左の腕は腰に右の腕は頭を抱く形。
「アズ兄?」
彼の声に感情が含まれないことを怪訝に思って、ケイは顔を上げる。
「何が望みだい?」
「え?」
彼のふっと短く息を吐く音。
続く言葉には優しさが含まれていて、
「何が望みなのか尋ねているんだよ」
「えっと……?」
それでも何か違和感があった。
「僕も怒るんだよ、わからないのかい?」
少女から身体を離すと、彼は少女の左右の頬を左右の手で掴む。
戦闘服のグリップの良いグローブと少女の滑らかな肌の相性は抜群だった。
これ以上はないというぐらいしっかりと掴んで、引っ張る。
「やるにしてももう少しマシなやり方があっただろう?」
それでも彼は微笑を浮かべている。
「いつも通り、後ろから抱きつくなりなんなりすれば良かっただろう?」
言い終えると頬を解放した。
泣きそうな顔で少女は彼を見上げて、
「だって、最近、アズ兄冷たいし。……こうやってゲームする時間はあるのに」
「こっちにも都合があるんだよ。それなら、素直に会いたいと言えば良いだろう」
彼は肩をすくめると、
「彼女は休日潰して本来の仕事だよ」
「じゃぁ、なんで彼女さんがここにいるの?」
「並列処理はアンドロイドが得意とする分野だからね」
「……彼女さんのことばっか知ってるんだね」
「そして君の事は良く知らない。仮にも家族なのに変な話だ」
「他人事みたいに言わないでよ、アズ兄のいじわる……」
「今日、この後は一応、空いているんだ。これが終わったら一緒にでかけないか?」
一呼吸おいて、
「この前、会ったときに伝えておくべきだったよ。今日が休みだったってね。ごめんよ、ケイ」
まだ、痛むのかケイは頬をさすりながら、
「……ほんと?」
「本当さ」
「じゃぁ、すぐに終わりにするね♪」
どうやって、終わりにするかによって事態がさらにややこしくなる恐れがある、とエプシロンは考えて、
「すぐに消せるのか?」
「うん♪ だってすぐに行きたいし☆」
「いや、消すと怪しまれる。増やすのをやめて戦った方が良い」
「えー」
嫌そうな顔をするケイにエプシロンはすかさず提案した。
「僕も手伝うから」
「うん♪」
笑顔でケイは言った。