wired raven

文字通りの日記。主に思ったことやガジェットについて

アドストラトスフィア(5)

5. 1週間前 EW内「不可知の森」

小高い丘からは不可知の森の全体がよく見える。
物騒な名前がついた森だがナビゲーションシステムが今ほど発達していなかった頃は、道に迷う者が後を絶たなかったという。
何処も似たような景色で迷いやすかったそうだ。
そんなことを思い出しながら、青髪の少年は丘の頂上で腹這いになって双眼鏡を覗いていた。
この不可知の森を越えた先にニーレンという大きな都市がある。
遥か昔、竜の侵攻を退けるため、建設された要塞都市だ。
今は大陸でも有数の都市の一つでギルド「エンケの空隙」と同盟を結んでいるギルドの拠点が集中していた。
「ん?」
視界の端に何か影が映った。
双眼鏡の視界は狭く、追うのに苦労したがすぐに見つかった。
少年は双眼鏡の中心に見えた相手に向かって呟く。
「隠れるのが下手で助かる」
「逃げる前に捕まえますよ」
後ろから少女の声。
「それが一番だ」
そういって彼は少女のいる方に向かって走る。
少女はバギーの運転席に座って、
「飛ばしますよ」
「安全運転の範囲でお願いするよ」
そういって少年はシートベルトを着用した。
「アンドロイドの安全範囲は広いんですよ」
少女はニコっと笑った。
首をわずかに傾けての笑顔、髪がさらさらと流れて可愛いのだが、エプシロンはその意味を良く知っていた。
ベルトに背中から頭までぴったり押し付けると同時、小さな車体が加速した。
「偵察に割り当てられる人員が少ないのかいい加減だね」
風に負けぬよう少年は叫んだ。
「陽動かもしれませんよ」
同じように少女も叫んだ。
「ほかの見張りからは何も連絡はないけど、もしかするとかなりの手だれなのかもしれない」
「気を引きしめていきましょう。狩られるのはごめんですから」
少女は楽しそうにそういった。
小柄なバギーが加速する。