遥か下方で友軍が例の人型ロボットと空中戦を繰り広げている。
最初に放ったミサイル群はレーザによって大半が撃ち落されたが、一部が敵の防衛網を抜けて、本体に着弾していた。
相手が放ったミサイルはこちらの機竜隊に向けて、無数に放たれ、味方が何機か撃墜されたことを確認している。
互いに消耗戦になっている。
「前に読んだ小説の主人公、役回りがこんなだっけか」
自分は戦いに参加せず、ずっと、戦況を見守り、情報を集め続ける。
たとえ、味方を見殺しにしても、帰還するのが使命だったか。
「この様子なら勝てそうだな」
『油断は出来ない。未知の兵装搭載の恐れがある』
「未知の兵器か。エーテルの減少は使わないとおきないからなぁ」
『エーテル濃度低下現象は攻撃の予備動作だったと考えられる』
「あれだけの範囲でエーテルの濃度が下がるとなると……」
『目標周囲の空域が一瞬で吹き飛ぶだろう』
「それでもお釣りが来てもおかしくはない」
一瞬、各ディスプレイにノイズが走り、スピーカーからもノイズが響いた。
「どうした?」
『エーテルに乱れが生じた。機体に影響は無い』
「エーテルに乱れ?」
疑問を口にしながら、機竜を右に傾けて下の様子を確認する。
地表付近に光の粒のようなものが見える。
「まずい。あの光は……」
『エーテル転換反応確認。急速離脱しろ』
「くそっ」
舌打ちする田辺の下、大型の機竜が能力限界を超える加速で、人型ロボットの脚部に突っ込む。
両者のフレームが軋み、砕ける。
右足を失ったロボットはゆっくりと身体を傾け始めた。
が、地表付近の光の粒は密度を上げていくばかりだ。
ブラックアウトは機首を真上にあげて、最大速度で加速。
地表の様子を後方カメラで確認すると、フラッシュを焚いたように真っ白だった。
次の瞬間、地表を覆っていた白い光が泡のように隆起し、はじけた。
衝撃波が広がり、地表の森を焼き払い、攻撃を続ける機竜隊を飲み込む。
光と風が止まるとそこには巨大なクレーターと砂っぽい空気、そして、目標が横たわっていた。
「……エーテルバーストか。大技だと聞いたが、まさかこうまでとは」
「離脱の指示が間に合わなかった」
「空中戦で燃料を消費しているんだ。指示が届いたところで逃げられないだろ」
「そういう問題ではない」
「そりゃそうかもしれないな。だが、俺たちの役割はこの情報を届けることだ」
「私は」
「黙れ。お前は考えすぎなんだ。いいか、勘のいい奴は自分で気付いて離脱してる。死んだ連中は最後まで攻撃を続けていた。決死だった。お前が言ったところで変わらなかった」
「すまない」
「……帰投しよう」
『了解』
基地に戻っても、田辺とエリスは会話をすることなく、田辺はログアウトをした。
「俺は何を言っているのだろう」
寝転がって見る天井は暗い。
明かりを点けていないのだから当然だ。
八つ当たりするのは子どもの証拠ではないか。
「……頭、冷やすか」
ふらついた足取りで浴室に向かう。
乱暴に服を脱ぎ捨て、乱暴にシャワーを浴びて、乱暴に身体を拭いて居間に戻る。
「……!!」
「様子がおかしかったので来たのだが……」
他でもないエリスだ。
「タイミングを誤ったようだ」
いつもと少し違う様子で回れ右をして向かう先は玄関だ。
混乱した思考回路が咄嗟に下した判断はエリスの腕を掴むことだった。
伸ばしたところで、ホログラムに届くわけがないのだ、と途中で気づいた。
が、伸ばした手はそのまま、エリスの右の手首をしっかりと掴んだ。
「?!!」
「人間と話すには人間を模倣するのがもっとも、効率が良いと聞いた」
「……」
「田辺、衣服には身体を保護する機能がある。保護なしの人間の身体は脆弱ではないのか?」
「……服、着てくる」
調子が狂いながら、田辺は服を干した洗濯物の山から適当に拾い着ていく。
気になったので田辺が振り返ると、エリスは田辺に背を向けていた。
一応は配慮をしているようだ。
「終わったぞ」
「そうか」
「何で、お前が此処に居るんだ?」
「心配だったので見に来た。先に言ったとおりだ」
「だって、お前、防衛システムだって言ってただろ。どうして、人間の姿を……」
「それも先に答えた。人間と話すには人間を模倣するのがもっとも、効率が良いからだ」
「……心配して来るのはありがたいが、もう少し、人間の手続きを踏んでから来てくれ」
「裸体を見られたのが恥ずかしいのか。綺麗な身体なのだから、晒したところで問題ないだろう」
「そういう問題じゃないっ!!」