wired raven

文字通りの日記。主に思ったことやガジェットについて

アドストラトスフィア(3)

3. 1ヶ月前 EW内放棄都市

アリウムは白い廃墟の街を探索していた。
この街はかつて交易でとても栄えたが大陸間の戦争により今の姿になった。
そんな話を聞いたっけ、とアリウムは回収クエストの対象であるビルの欠片を探す。
何でもとても高い建物でその欠片を解析すれば、EWの建築業界の発展に役立つのではないか、ということだった。
「あれかな?」
末広がりの大きな建築物を見てアリウムはいった。
しかし、建築物は地上30mの高さで砕けていた。
戦争が始まった時、真っ先に破壊されたのだった。
もしかすると、このあたり、足元の瓦礫の中にあるかも、と歩きにくい足元を見る。
白い大小様々な瓦礫が積み重なっている。
資料として渡された小片を参考にしながら足元の欠片を丁寧に調べる。
小片と同じように表面も断面も滑らかなものはすぐに見つかった。
解析を進めるのに必要な量は1kg、その量の欠片を収集箱に放り込んでいく。
そのまま、持つには少々、重たいがアイテムパックに放り込めば別空間に格納されて軽くなる。
「これでよし」
アリウムはクエストを達成したという感覚を味わいながら、改めて正面の建物を見上げた。
正確な高さはわからないが1kmはあったと言われている。
太陽の光を浴びて白く輝く塔が空にずっと伸びているのをアリウムは想像した。
そして、改めて現実の建物を見た。
戦闘と風雨の影響でだいぶ劣化しているが、それでも建物は形を保っていた。
高さが1kmもあるような建物を支えるのだから、かなり丈夫な作りになっているに違いない、とアリウムは考える。
高い砂の山を作るためには大きな土台が必要になるのと同じだ。
途切れた部分はウェハースを折ったようになっていた。
その断面の先、内側で何かが光を反射したのを彼女は見た。
なんだろう、と疑問を口にしようとして人の気配に気づいた。
レーダーには何も映っていない。
そうなると盗賊やプレイヤーキルを狙っている誰かがいる、と考えるのが筋だろう。
アリウムは両の腕にはめ込んだ武器がすぐに使えるようリミッターを解除。
しかし、攻撃には移らず来た道を戻る。
盗みでも殺しでも確実性をあげるためにたいていは複数人だ。
そんな相手に一人で挑むのは分が悪い。
下手にしかけるより下がったほうが賢いのだ。
相手の気配が離れていく、追いかけてはいないようだ。
街を結ぶ転送ゲートの待ち伏せもなくアリウムは依頼主がいるニーレンまで戻れた。

4. 2週間前 ギルド「エンケの空隙」拠点内ブリーフィングルーム

「今のところ、大きな遅れもなく準備は進んでいるわ」
スグリは空中に映し出されたガントチャートを指して続ける。
多くの作業は作業終了予定日の前日か当日に終わっているのがわかる。
過ぎているものも数日遅れで作戦に支障を来すような遅れもない。
今回の迎撃作戦に対する士気の高さが現れていた。
「既に聞いているヒトも多いと思うけれど、一部のギルドに妨害の動きが見られるの」
グラフが消えて世界地図に変わる。
大陸は緑、海は青で色分けされた地図の上に問題のギルドの場所が赤の点として穿たれていく。
最初は数が少ないと見ていた部屋にいるメンバーの顔がだんだん硬くなっていった。
「観測されているギルドの約3分の1。それが今わかっている私たちの敵の数よ」
エーテルリアクター搭載型機竜を持っているギルドもいるのか……」
照明が落とされた部屋で誰かが言った。
「誰もが宇宙に行くことを是とはしないのよ」
スグリはスクリーンから部屋にいるメンバーに視線を向けながら、
「このまま、技術が広まれば戦場は間違いなく宇宙まで届く。衛星軌道上から地上を監視、偵察をするようになるでしょう」
でも、とスグリ
「どのギルドでも宇宙での活動ができるわけではないわ。お金や技術が障壁になるかもしれない。宇宙にそもそも興味がないかもしれない。でも、誰かが宇宙に行けば嫌でも目を向ける必要がある。そうしないと一方的にやられてしまうから」
ああ、と誰かが何かわかった、と言わんばかりに声を漏らした。
「だから、宇宙に上がるのを妨害する。そう考えれば理解できるでしょう」
「マスター、そんなに物騒なことになるのでしょうか」
声をあげたのはシグレだ。
「そう、これはあくまで仮定の話よ。実際は宇宙開発競争一色に染まることはないと思うわ。機竜が登場してもすべてのギルドが機竜を所有しないようにね」
スグリの言葉にあちこちから同意の声があがる。
「過去を見ればエーテル型推進器を搭載した機竜だって段階を踏んで全体に普及していってます。特に技術の独占は行われないで」
とシグレは確認するように続ける。
「確かにエーテルリアクターをはじめとする新しい技術は宇宙開発競争を加速させる。でも、実際は一部だけ突出して圧倒的な能力を持ったりとかはしないはずです」
スグリは頷くと、とび色の瞳で彼を見て、
「あなたの話も仮定だわ。どちらも筋は通っている話、どれを選ぶかはそのヒト次第ね」
「なんかどっちに傾くにしても激しいなぁ」
今までの話を聞いてヘゲルは頭をかきながら言った。
「誰か入れ知恵でもしたんじゃねぇの?」
「私があなたたちに入れ知恵しているように誰かが煽っている可能性が高いわ」
「どっちを見るかって話ですねぇ」
誰ともなしにシグレが言った。