旅費を抑えるにはポイントがいくつかある。
交通費、宿泊費、食費の三点だ。
どれも削りすぎると痛い目を見る項目でバランスが難しかった。
移動には青春18切符を使って電車に乗り、宿泊費は二人で同じ部屋に泊まって浮かせることにした。
それは良いとして、
「狭いね」
と瞬子は言った。
「わかっていたことでしょう」
とカシス。
シングルのベッドの上、二人は背中合わせで横になっていた。
間接照明で淡く照らされる部屋の中にページをめくる音が聞こえる。
「本、読んでるの?」
「そういうあなたは執筆中でしょう」
「うん。せっかく、ネタを思いついたから書いておこうと思って」
「目、悪くするわよ」
「すぐに終わるから」
「そう」
まるでお母さんみたい、と瞬子は思ったが言わなかった。
「今、お母さんみたいと思ったでしょう?」
「カシスちゃんはわたしのお母さんと違って落ち着いてるよ」
白の少女が息を吐き出す音が聞こえた。
「私の方が長い間、生きているのだから当然でしょう」
「フォロー、ありがとう」
「はいはい」
返事と一緒に本の閉じる音が小さく聞こえた。
瞬子もメモがきりよく終わって、メモ帳を閉じてベッド横においた。
「カシスちゃん、落ちたりしない?」
「大丈夫よ」
「でも、やっぱり、狭い。……」
「どうかしたの?」
「こうすれば良いのかな」
ベッドが浅く揺れて、
「身動きが取れないわ」
「こうしたら落ちないし、狭くもなくなるよ」
白の少女は短く、はっきりと、
「腕をほどいて」
黒の少女が残念そうに白く細い腕を放した。
その黒の少女の目の前で白の少女は静かに寝返りを打つように向きを変える。
「一方的なのは嫌いなのよ」
いたずらっぽい笑みを浮かべて白の少女は黒の少女に襲いかかった。
リハビリも兼ねてちょっくら
今回はかなりお遊び的なお話を動かしやすいメンバーで。
こうやって書くとカシスの気まぐれっぷりの激しさがわかる。