安静にしていたのが功を奏したのか、その日の夕方には瞬子の熱は平熱の36度まで下がっていた。
熱を測り終えると瞬子はカシスに言った。
「ありがとう」
「困った時はお互い様でしょう」
「そうね」
瞬子は起こしていた上半身を横たえて、
「さっき、お母さんからメールが来たの」
布団を瞬子にかけ直しながらカシスは続きを促した。
「少し遅くなるけど今日は絶対に帰るから、だって」
「お父さんはどうしたの?」
「週末は絶対に帰ってくるって気合いが入ったメールを送ってきたよ」
そのメールがおかしかったのか瞬子は小さく笑った。
微笑みながらカシスは優しく言った。
「無理はしない方が良いわ。もう少し寝ていなさい」
「うん」
小さな声で頷いて瞬子は瞼を――
ばたんっ
大きな音に瞬子は閉じかかった瞼を開き、カシスは部屋の出入り口に目を向けた。
「た、ただいまっ! 瞬子、大丈夫!?」
勢いよく入ってきたのは瞬子の母親の明美だ。
道中を全力で疾走してきたのか髪型が崩れ、息も乱れていた。
「……起こしてどうするの?」
カシスの言葉に両の手で頭を押さえながら膝から落ちる明美。
「大丈夫だよ、お母さん」
「良かったぁ」
明美の沈んでいた表情が一瞬で笑顔に変わる。
どちらが親なのかしら、とカシスは疑問に思うが口にはしなかった。
親と子の間に入るのは無粋だろう。
先ほどの突っ込みは例外だが。
カシスは明美に座っていた椅子を譲る。
「お大事にね、瞬子」
瞬子はこくっと頷いて何か言おうとしたが、
「瞬子、本当に大丈夫? 頭が痛かったりしない?」
と母親に遮られてしまう。
カシスは目を閉じて静かに息を吐くと、親子の部屋を後にした。