スグリはトラックの後方にある指揮コンテナの中にいた。
正面の大型ディスプレイには各部隊の進行状況や損耗率などが映し出されている。
これらの情報は前線上空を飛行している管制機から送られて来ている。
この管制機は彼女の出した指示を前線の部隊に伝える中継器の役割も果たしていた。
「確認は取れたの?」
「それがわからないんです」
彼女の言葉に通信士は困惑した表情で答えた。
「通信内容に細工されているのは間違いないわ」
それが判明したのは負傷し、後方へ避難してきた者たちの報告による。
命令が正確に伝わっていないのだ。
どこかで伝言ゲームのように間違えている。
「直接通信できる機竜隊がいるわ。彼らに直接繋いで」
「了解、これより調査を開始する」
田辺が応答すると同時、ディスプレイに
『現在調査中』
の文字がでた。
「了解」
原因の調査を相棒に任せ、田辺は周囲の警戒に集中した。
通信の内容に不自然な点があることを除けば、異常のない戦線だ。
右の隣には旅客機型の管制機が飛んでいる。
護衛にはブラック・アウトの他に4機の機竜が護衛についている。
地上では歩兵部隊が敵部隊と戦闘中のはずだ。
『原因判明、司令部との中継地点において、通信内容の改ざんが行われている』
すぐに無線をいれ、周囲の仲間に告げるのと、管制機が有機的に脈打ったのは同時だ。
IFFがFriendからEnemyに切り替わる。
『各機散開して応戦しろ。』
反射的にスロットルを衝く。
ブラック・アウト、最大出力。
「管制機が攻撃してきたのね」
「はい。現在、護衛についていた第500飛行隊が応戦中です」
「それから通信は?」
「通信妨害のためありません」
スグリは溜息をついてから、
「全軍に撤退命令を出しなさい。信号弾用意」
「撤退、ですか」
「全体で行動できなければ、個別で食いつぶされるだけよ」
「了解」