wired raven

文字通りの日記。主に思ったことやガジェットについて

雑文

「自分が何をやろうとしているのかわかってるのかい?」
「もちろんっすよ」
「言っておくけど、君側の戦力は君だけだ」
「え、アズの先輩は興味ないんですか、それはおかしい」
「遠慮がちに言うけど、覗きをしようとする君の方がおかしい」
「何処が遠慮がちなんですか、先輩」
「おかしいのところ。本当なら酷い罵倒をしたいところなのだけど」
「そうすか」
 軽い返事をする後輩を眺めながら、アズリエルは肩を湯まで沈める。隣では八城が一杯やりつつ夜空を見上げていた。
 定期的に新しい人間を入れて、様々な視点から新型イクサイスユニットの開発をしよう、という話になって、新しく入ってきたのが田中という青年だ。今までにないところに目をつけるあたり、狙い通りといえるが、行動もまた、今までに無いことが多い。
「ありゃぁ、確実に崩れるな」
「乗って大丈夫でも、アルギズに崩されるよ」
 評価する二人を他所に田中は、桶を積み上げることに必死だ。よく見ると彼の思想に賛同した者たちが桶を運んだり、積み上げるのを手伝っていた。
「賛同者を得たところで、君が非常に不利であることはわかってるよね」
「それでも、男には見て見たい世界があるもんっす」
 見えるのは別次元の世界だろう、とアズリエルは思った。とりあえず、止めることは止めたし、後はアルギズが強制的に止めるだろう。ことは田中の一方的な敗退で終わるはずだ。
「あの坊主には嬢ちゃんのことは言ってねぇのか?」
 八城の問いにアズリエルは首を縦に振って答えた。
 田中は桶を山のように積み終え、登山を開始した。時々、手や足を滑らしそうになるが、無事に頂上に到達するとゆっくりと身体を起こして……狙撃された。
「!」
 仰け反った身体を起こそうと桶を掴むが、積み上げられただけの桶に彼を支える力は無い。それどころか、桶は派手に崩壊し、彼の身体は水柱と湯煙と共に水底へ沈んでいった。墜落地点には桶の積み上げを手伝っていた者たちが集まり、
無茶しやがって
 その言葉と共に揃って敬礼をした。そして、すぐに沈んでいた田中を引き上げて、頬を叩いて目を覚まさせる。
『おい、どうだったんだ!?』
 寄せ集めチームの割に連携が良い。田中にはカリスマ性があるのかもしれない、と冷ややかにアズリエルは彼らのやり取りを見る。
「ま、まな板……」
『くそう、まな板めっ……隊長の敵は必ず――』
 その台詞は最後まで言うことは出来なかった。なぜなら、上空から無数の水の矢が降り注ぎ、彼らの頭に命中したからだ。
「嬢ちゃんも容赦がねぇな」
 呆れ顔で八城は言った。
「ウォーターカッターで叩ききられなかっただけでも、良かったんじゃないか?」
 柵の向こうから聞こえる拍手を聞きながら、アズリエル。
「今回の人選、間違えたかもしれねぇ」
「そうかもね。でも、面白いからいいと思うよ」
「そうか」
 アズリエルはこういう騒々しいことを嫌っていたし、アルギズは自分の感情を表に出して怒ることは無かった。それが今はこうなってるのだから人間、随分と変わるものだ。ほろ酔い気分で八城は思った。