バスを数台見送って、腕時計は夜の9時を示している。
先に見送ったバスが最後のバスらしい。
「今日はこれ以上、先に行くのは難しいでしょう」
「このとおりだ」
情報端末で天気予報を見ながら、アズリエルはいった。
「此処で泊まるか。それとも、引き返すか……いや、引き返すにはもう遅いか」
「泊まりましょう。設営の手間も省けますしね」
「それもそうだ」
決まれば行動するのもはやい。
携帯食料で軽く、夕食を済ませてしまうと、することもなくなった。
「こうなってくると暇だな」
金属製のマグカップを左において、アズリエルはランプに照らされる天井を見上げる。
右隣にいるアルギズはそんな彼を見て、
「端末で巡回はしないんですか?」
「さすがに此処まで来て、それは、ね」
苦笑まじりにアズリエルは続ける。
「せっかくの機会だし、ゆっくり話もしたいかなってさ」
「考えてみると、二人だけというのはあまりないですよね」
「そうだね」
アルギズの視線を感じて、そちらの方を向けば、近距離にアルギズの顔があった。
慌てて、アズリエルは姿勢を正して、座りなおした。
その様子にアルギズが不満そうな顔をしたのに彼は気づいていない。
もっとも、少し表情が変わっただけであり、気づけるものは少ないだろう。
「そういえばさ。さっき、言いかけた台詞って何だったんだい? あの丘で」
右を見ればマグカップに視線を落とすアルギズがいる。
光源が暗いため、表情ははっきりとわからないが、微かに笑みを浮かべているようにも見える。
それだけなのに絵になっているな、とアズリエルは思う。
「ちょっとした質問です。回答は別の形で頂きましたから」
「なんだ、それ」
問いかけるアズリエルにアルギズはいたずらっぽい笑みを浮かべ、
「秘密です」
「秘密か。それは残念」
そういって飲んだコーヒーは熱く、そして苦い。
先のいたずらっぽい笑みのまま、
「そうですね。では、もう一度尋ねましょうか」
「なんだい?」
「私のこと、どう思ってますか?」
いきなりの問いにアズリエルの思考はきっかり、2秒停止した。
すぐに頭によぎったのは「はめられた」という言葉だ。
こうなってしまうと、回答せざるを得ない。
「どうって……」
言葉が出てこない。
下手に口を開くと、言葉が止まるのと同じように思考回路が止まりそうな気がした。
「……」
答えはずっと、前からは出ているのを彼自身がよく知っている。
ただ、それを言う機会がなかったし、言う必要性がないとも思っていた。
このときになって、彼は自分が臆病なだけだ、ということに気づいた。
ああ、思いを伝えることで、関係を壊すこともあるからか。
「どう言えばいいのかわからないけど」
情けない前置きだな、と内心で苦笑いするが、目は真っ直ぐとアルギズに向ける。
「僕は君のことを大切な存在だと思ってるよ」
その言葉にアルギズはいつもの笑みを浮かべて、
「ありがとうございます。私もですよ、アズ」
と返した。
なんというか
神経すり減らす駆け引きをやっているように見える。
書きながら思ったのだけど、自分はこの手の文章を書くのに慣れていない。
それもそうか、普段はこういう感情を重視した文章を書いていないのだから、慣れているほうが不思議なのだ。
もっと、書く頻度をあげないと、練習にはならないな。