ハガラズは眉間にしわを作りながら、栞を睨むように見ていた。
周囲の視線を集めていることに気付き、ハガラズは眉間を揉んだ。
贈る相手は紙の本が好きな少女だ。
少なくとも外見は、だが。
実際のところは、非常に説明するのが大変だ。
彼女は敵で、ハガラズとは平たく言えば殺し合いをしていた。
紆余曲折を経て、ハガラズは彼女と敵以外の関係を構築することに成功した。
「ま、どうだかな」
ひとり呟きつつ、彼は一枚の栞を手に取るとまっすぐ、レジに向かった。
プレゼント用の包装も忘れずに。
今日も彼女の、カシスの住むアパートの一室には、誕生日を祝いに人やアンドロイドが集まっていた。
その中にハガラズも混じっている。
カシスはプレゼントを受け取り、贈ってくれたこと、祝ってくれたことに礼を言っている。
いつものつんとした気配はなりを潜めているのは、今日が彼女にとっても特別な日だからだろうか。
やり取りが落ち着いたところで、ハガラズはカシスに近づいた。
「よぅ」
「あなたも来てくれたのね。遠かったでしょう?」
「大した距離じゃねえよ」
「そうね」
彼女の目が遠くを見た、気がした。
「いけねえ。肝心なことを忘れるところだった」
ハガラズは背筋を伸ばして、
「た、誕生日おめでとう」
視線が彼女とあうようにハガラズは屈んで、ラッピングされた栞を渡す。
「ふふ、ありがとう。緊張しているあなたを見るのは新鮮だわ」
「からかうなよ。そりゃ、なれてねえけど」
包装の上からなぞって、
「これは、栞かしら?」
カシスは言った。
「よくわかったな」
「何となく、あなたは栞をくれる気がしていたから」
ありきたりすぎたか、と落胆しかかっていると、包装をあけたカシスは微笑む。
「大事に使わせてもらうわ」
「お、おう」
なぜ、どぎまぎしているのだ、と思っていると、後ろから声をかけられた。
その人物もカシスに贈るものがあるらしい。
ハガラズはそっと離れながら、最初であった時はこんな光景、想像できなかった、と何十回目にもなる感想を持った。