横を歩く白の少女の背はいつもの倍ぐらいあった。
いつもなら青年がしゃがみ込まないと目線の高さがあわないのだが、今日はほとんど気にしなくても良い。
「で、今日も姿をいじったわけですかよ」
と青年。
「ええ」
と素っ気なく少女は答える。
背が高くなるというのは成長と同義で当然ながら声も変わっている。
少女より女性と表現した方がしっくりくるような気もするが何処か幼さも含んでいる。
「年齢チェックが厳しくなったのはきっついなぁ」
「年々、厳しくなっているものね。こういう身体で良かったわ」
「まさに能力の無駄遣い」
「有効活用よ」
と少女は笑った。
「えっと、駅はあっちか」
「違うわ。左よ」
少女は即答した。
「ナビはどうしたの?」
「こっちの分は買ってねぇんだ」
苦笑まじりに青年。
「高いものね」
と白の少女はデータの値段を思い出しながら言った。
確か、アンドロイドのナビゲーションシステム用データは年間で数万円のはずだ。
「貧乏にはきついぜ」
「なら、節約するなり何なりしなさいな」
「そうなんだがなぁ」
アンドロイドは抑えようと思えばいくらでも生活費が抑えられる。
最低限、メンテナンスのために身体を安置できる場所と身体を動かすのに必要な電力が確保できればいい。
「趣味もほどほどにね。また、ゲーム?」
「今月は新作ラッシュでよ。10本ぐらい買ったかな」
「人には言えないゲーム?」
「どきっ」
「わかりやすい反応をありがとう」
「切符買ってくるぜ」
と青年は切符売り場に向かって走っていく。
切符を買って戻ってきた彼と合流すると二人は改札に向かう。
都会の駅だけあって人の流れは激しく、普段ならはぐれることも多いのだが今日ははぐれることもなく、二人は駅のホームにたどり着けた。
「この調子なら予定通り、30分前に合流場所につけるわ」
「待ちぼうけフラグですね、わかります」
彼の言葉にふふ、と笑って少女は返した。
「幹事が遅れるよりはいいでしょう」
「お前っていっつも真面目だよなぁ」
「あなたが不真面目なだけよ」
「うぐはっ」
「そういうところ、昔から変わってないわ」
「ゆるーいキャラが俺の売りです」
「戦闘用アンドロイドとは思えない発言ね」
「今は非戦闘状態だからなぁ。あんな張り詰めてもしょうがねぇって」
苦笑交じりに青年は応じた。
「そうね。平和な日常だもの」
「なんつー話なんだろなぁ」
少女は小首をかしげて、
「日常会話ね」
「え、なにそれこわい」
無視して少女は小さな鞄から携帯電話を取り出して、メールや連絡が着てないか確認する。
今のところは誰からもないようだ。
「参加者20名中遅刻常連7名、何人が無事に辿りつけるかしら」
「ネット見てる範囲じゃフツーに来れそうだぞ」
端末を使わずにアンドロイドの青年は応えた。
「杞憂だといいのだけどね」
「あー、乗り換えミスった奴が約1名」
「ふふ、空気を読むのが上手ね」
「シグレの奴な。10分ぐらい遅刻しそうだとよ」
少女の手の中にあった携帯電話が振動し、着信を告げる。
「スグリよ」
相手はシグレだった。
若干、焦った声で彼は
「マスター、すみません。10分ぐらい遅れそうです」
「わかったわ。またなにかあったら連絡して」
「了解です。では」
電話を切ると少女は、
「これから忙しくなりそうね」
「ネットの方はこっちで追いかけるぜ」
「お願いね」
「ほいさ。アンドロイドなめんなよ」
と楽しそうに彼。
「期待しているわ」
そういって少女は微笑んだ。