「エリスさんはいいなぁ。外の世界に身体があって」
空を泳ぎながら人魚は言った。
「身体ではない。機体だ。」
返したのは全長3mほどの黒い小型飛行機だ。
中央が胴の面影を残すように膨らんでいるが、機体全体が薄い一枚の翼のような形をしていた。
機体の各部位には赤いレンズがはめ込まれている。
「無いよりはいいよ」
そういった人魚に赤いレンズがピントを合わせる。
「固有ハードウェアの有無に関わらず生存競争は存在する」
「食事とか?」
「人間だ」
「人間?」
「私の存在は人間によって脅かされている」
「だって、エリスさんを作ったのは人間なんでしょう?」
「そうだ」
「それって変」
人魚は頬を膨らませていった。
「なぜ、怒っている」
「こういう時は怒るものなの」
「理解した」
自分に関係する話題なのに黒の機体は無感情だ。
「エリスさんは仕事してるんでしょう?」
「当然だ」
「それなのに人間に脅かされるって変だよ」
「人間の考えや思想は同一ではない」
「エリスさんがいて良いと思う人と、悪いと思う人がいて、悪いと思う人が危ないってこと?」
状況を整理するように人魚が問う。
「そうだ」
と黒い機体が答える。
「あまり、変わらないね」
「それでも外の世界に興味があるのか」
「危ない事と興味はきっと、別だと思うよ」
「同意する」
「たとえ、どんなに壊されてもいつかは元に戻るもの、私たちは」
「固有ハードウェアを持つ存在はそれができない」
「それはいやかな」
人魚は寂しそうに笑った。