wired raven

文字通りの日記。主に思ったことやガジェットについて

緊急ハッチからアルギズが身体を投げるのと、機体が炸裂するのは同時だった。
破片にあたらないよう身を屈めるが、剥がれた装甲がアルギズの背から激突した。
背負っていたスラスターがゆがみ燃料が吹き出し引火する。
すぐさま切り離し、スラスターに向けて後ろ蹴りを放つ。
爆発。
熱と風に背中を押され、落下速度が増した。
風を切る高い音のなかに別の音をアルギズは聞いた。
まわりを見ても誰もいない。
いや、いた。
先ほどまでいなかったはずの前方に声の主がいる。
見たこともないスラスターと翼を背負ったアンドロイドだ。
飛行可能なアンドロイドがいるとは聞いたことがない。
そもそも、前方にいるアンドロイドは実体ではない。
時折、その姿はノイズで乱れたようにゆがむ。
『もし、この声を聞ける者がいるなら、彼らに伝えて欲しい』
今度ははっきりと声が響いた。
『俺は君たちを手伝えて幸いだった、と』
ネットワーク上にこのアンドロイドの思考が残っていて、それが何らかの弾みで再生されているのだろう。
もしかすると、これが人間で言う走馬灯なのかもしれない、とアルギズは思う。
『もし、俺に手が届くなら、この翼をくれてやろう』
台詞の意味を考えることも無く、アルギズはその幻に向かって腕を伸ばす。
果たして右手は届き、
『幸運を』
言葉と共にそのアンドロイドは姿を消した。
残るのは触れた感触と風を切る音、そして……。