wired raven

文字通りの日記。主に思ったことやガジェットについて

b.d.

「誕生日、ですか」
 テーブルの上に並ぶいつもと違う料理を見てアルギズは言った。
「それも、君の誕生日だ」
 料理の向こう側に座る蒼が短く返す。
「でも、私はアンドロイドですし」
「こういうのには、人間もアンドロイドも何も無いよ。それもと、祝われるのは嫌いかい?」
「そんなことはありません。ただ……」
 アルギズは席について、
「どうして祝うんですか?」
「どうして、か。難しいような簡単のような問いだね」
 頭を掻いたり、腕を組んだり、唸ったりと考え中のモーションをいくつかやって、
「生きてこれて良かったね、と祝うというのはどうだろう?」
「来年の今頃にはテラフォーミングが完了します。それでも、その意味で祝うんですか?」
「この世にいる限り、いつかは終わりが来る。終わらずに誕生日という節目を迎えるのは、思いのほか、大変なんじゃないかな」
「だから、誕生日を祝福するのですか」
「自分の"子"が元気に誕生日を迎えたんだ。祝う理由はそれだけで十分だよ」
「論理が飛躍してます」
 アルギズの突っ込みに蒼は苦笑いを浮かべるが、すぐに取り直して、
「細かいことは気にしない。料理が冷めてしまうよ」
 蒼がグラスを取ったのを見て、アルギズも手元のグラスを取った。
「誕生日、おめでとう。アルギズ」
 グラスが料理の上で交差し、高い音が響いた。

過去話

アルギズが戦闘用アンドロイドとして、敵をひたすら撃ち砕き続けていた頃の話。
イクサイスになる60年ちょっとほど前か。
ちなみに蒼はアルギズの育ての親、フルネームは深瀬 蒼。